研究概要 |
生殖能力を欠いたX染色体コンソミック系統C57BL/6J-ChrX^<MSM>の雄の精子形成期において,第一減数分裂前期のパキテン期に,本来起こるはずの性染色体の不活性化が不完全であることが予備実験により示されていたが,その原因を解明するため,免疫細胞染色などの手法を用いて研究を行った。その結果,第一減数分裂前期のレプトテン期,ザイゴテン期までは異常が認められなかったが,パキテン期において,相同染色体間の対合の異常や,ヘテロクロマチン化した性染色体に多数のタンパクが集積して形成されるsex body(またはXY body)の形成異常が起こっていることが明らかになった。よって,C57BL/6J-ChrX^<MSM>で性染色体の不活性化が起こらないのは,この異常なsex bodyのためであると考えられる。さらに,対合不全や異常なsexbody形成などにより,第一減数分裂前期のチェックポイントの制御を受け,アポトーシスによって異常な精母細胞が除かれていることが示された。これによりC57BL/6J-ChrX^<MSM>の精母細胞は半減し,以前より分かっていたC57BL/6J-ChrX^<MSM>の精子数が顕著に少ないという表現型を説明することができた。同様の表現型は,他の野生系統を用いた交配によるF1雑種でも認められたため,減数分裂期におけるこれらの現象が,生殖隔離を引き起こす一般的なメカニズムのひとつである可能性が示された。またこれらの現象に関わる原因遺伝子については,X染色体をセントロメア側とテロメア側に二分してさらに詳細なマッピングを実施したところ,セントロメア側にある原因遺伝子の存在領域をさらに絞り込むことができた。今後は,この領域に存在する候補原因遺伝子を含んだBACを用いて,トランスジェニックを行い,原因遺伝子としての絞り込みを行う予定である。
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