研究課題
平成21年度の結果を踏まえ、シナプス前制御に関するリアリスティックなモデルを適用し、ニューラルネットワークのモデル上でシナプス結合の変化率あるいは変化の起こる範囲などをパラメータとして様々なシミュレーションを行った。その結果、これらの変化に関して、ある一定の値を境にネットワークの活動パターンが急激に変化する、いわゆる力学系の分岐のような現象が起きうることがわかった。また、同じパラメータであっても、ニューラルネットワークが初期状態や外部からの入力の違いに応じて大きく異なる振る舞いをするものもあった。これらの結果により、一つのニューラルネットワークが状況に応じて様々な役割を果たしうる可能性が示唆された。また、実際の脳の神経回路においては、多くの場合、シナプス前制御とシナプス後制御の両方が共存していると考えられるが、それらがどのように協調して機能を果たしているかについては未知の部分が多い。そこで、一つには、大脳皮質錐体細胞に関して、げっ歯類の脳スライスにおける生理学実験で得られているデータを基にして、プレシナプティックな機構が大きく関わると考えられているシナプス伝達効率の短期可塑性の効果を、数理モデルを用いて特徴付けし、また、ポストシナプティックなNMDA型受容体の作用を組み込んだ詳細な神経細胞モデルの特性を解析して、それらいずれをも含むようなモデルを考えていく上で重要となる基礎的知見を収集した。さらに、シナプス前抑制の場合と後抑制の場合での同期性の違いが持続的活動の安定性に影響するという新たな知見が得られた。そのため、活動の同期性に関する詳細な数理モデル解析を行った。その解析の結果、神経細胞間の異常な同期状態を緩和するためには、微小に結合強度を減少するだけで予想よりも大きな効果があることを示唆する結果を得た。
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