21年度は20年度に引き続き、未紹介伝本についての情報収集と未調査伝本の調査、写真版等での収集、および周辺情報の収集に努めた。 『とりかへばや』伝本については茨城大学菅文庫、東海大学桃園文庫、九州大学音無文庫、無窮会図書館等に出向いて調査を行い、許可が得られたものにつては複写等で入手した。精査は今後の課題のひとつであるが、このうち九州大学蔵の三伝本については、いずれも他伝本と比較して特に特徴的な性格を有していることがわかり、継続的な調査・分析の必要があると判断した。茨城大学蔵本については、ともに所蔵される『うつほ物語』関係資料との関係の解明をする必要があると考えている。このほか、これまでに紹介されたことのない伝本の伝来情報および所蔵情報を得た。このうち、島根県立図書館蔵本については松平家に伝えられた学会未紹介伝本であることを確認したが、同図書館には他の物語の写本も多数伝わっていることから、それらを併せた情報整理が必要である。 なお、『浜松中納言物語』『風葉和歌集』および和学者の手になる物語目録類の伝来についても共同研究者および協力者がそれぞれに調査、資料収集をすすめ、いくつかの知見を得たところである。たとえば『浜松中納言物語』については書写様態に、これまでに指摘されてこなかった特徴を認めうること、物語目録類の作成と継承にあたっては、語学研究に高い関心を示した人々の関与が認められることが明らかになりつつある。成果の一部については既に公表の準備を進めているが、王朝物語の伝本流布状況や所蔵情報をあわせて考察、再整理する必要があることを痛感したため、最終年度である22年度には補充調査等を含めて基本情報の整理を心がけ、研究期間終了後も継続して調査、研究を行うための基礎固めとなるようなまとめを行いたい。
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