研究課題/領域番号 |
20K06675
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
毛利 蔵人 沖縄科学技術大学院大学, 進化神経生物学ユニット, 研究員 (70392149)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 再生 / 位置情報 / 細胞性粘菌 |
研究実績の概要 |
多細胞生物の再生現象は多くの生物を用いて研究されているが、どのように切断により撹乱された位置情報が再構成されるのか、また、再構成された位置情報にどのように細胞が応答し再分化や組織の再構成が進行するのかについては未だ不明な点も多い。本研究では短時間のうちに失った部位を再生することができる細胞性粘菌の多細胞体を用いて、再生時にどの様に位置情報を再構築できるのか、生体小分子動態のイメージング解析を中心にそのメカニズムを明らかにすることを目的にしている。本年度は、細胞性粘菌の多細胞体において位置情報構築に働くと考えられている小分子、環状アデノシン1リン酸(cAMP) について、再生過程でどの様に時空間的な濃度変化を生じているのかについて解析を行った。細胞内のcAMP濃度に応じて蛍光を発するレポーター遺伝子を導入した細胞を用いて多細胞体を形成し、切断後再生する過程でのcAMP濃度変化を蛍光強度の変化により観察した。すると予想に反して、通常の多細胞体形成過程で生じる特徴的なcAMPの濃度勾配や周期的なパルスの発生が再生過程においては観察されなかった。このことから、多細胞体形成過程では主要な分子機構であるcAMPの濃度勾配やcAMPに対する細胞の走化性は、一度形成された多細胞体での位置情報再形成過程では重要ではないことを示しており、再生過程においては他の小分子を介したものか、分泌性分子を介さない細胞間相互作用が重要であることが示唆された。多細胞体の位置情報形成に重要と考えられているもう一つの小分子であるカルシウムイオンについては細胞内濃度に応じて蛍光を発する細胞を入手した。現在この細胞を用いたFRETによる検出系のセットアップを行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
年度始めに所属が変更になったため、新たな所属先にて細胞性粘菌を用いた実験系を新たに立ち上げる必要があった。特に本研究に用いるレポーター遺伝子発現コンストラクトを保持する変異体株を改めてリソースセンターから入手したり、自分の手で作り直す必要が生じた。また、新たな所属先にて新型コロナウイルス対策のために自宅待機期間や緊急事態宣言下でのリモートワーク期間があったためその期間は実験に携わることができなかった。現在、研究環境の再セットアップも完了しており、今後の研究の遂行には支障がないと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
細胞性粘菌多細胞体で位置情報形成に関与すると考えられている小分子の一つ、カルシウムイオン(Ca2+)の時間・空間的濃度変化を生体イメージングにより解析し、再生過程における位置情報再構成へのCa2+の関与を検証する。一方で、本研究の解析対象となる小分子、cAMPやCa2+, 細胞性粘菌により合成されるDifferentiation inducing factor 1 (DIF1)については受容体や、合成・分解に関与する酵素などの関連遺伝子が明らかにされている。再生時におけるこれら小分子より伝わる情報伝達系の働きを明らかにするために、関連遺伝子欠損変異体を用いて移動体を作成し再生過程の挙動解析を行う。変異体細胞のみで移動体を形成し再生過程を解析するのに加え、正常細胞と変異体を混ぜ合わせたキメラ移動体を作成し、ラベルされた変異体細胞の移動や分化転換の様子を解析することにより、再生過程における各小分子シグナルや細胞応答の必要性を検証し、作用機序を明らかにする。 また、次年度には位置情報再構成における細胞内シグナル伝達因子の機能解析を計画している。これまでの解析から、移動体再生過程において、切断面でのシグナル伝達因子、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)のリン酸化の亢進や、切断刺激に伴うJAK/STAT系転写活性因子STATの核移行の報告があり、これらのシグナル伝達系が位置情報再構成に関与することが示唆されている。そこで、ここでも生体内分子イメージング技術を用いてリアルタイムでのERKのリン酸化状態の観察や、蛍光標識したSTATタンパク質の核以降の観察を行うことにより、再生過程におけるこれら情報伝達因子の役割を詳細に明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属機関が変更になり細胞性粘菌を用いる実験系のセットアップに時間がかかったことや、新型コロナウイルス対応のため自宅待機期間やリモートワーク期間があったため、予定通りの実験を遂行できなかった。そのため、実験消耗品費や旅費の消化ができずに次年度使用額が生じることになった。くりこされた予算は、令和2年度に行えなかった実験、特に小分子関連遺伝子の変異体入手や変異体作成のための消耗品や実験試薬等に使用する予定である。
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