研究概要 |
我々は哺乳類第4番目のグロビンであるサイトグロビン(Cytoglobin,Cygb)の生体内機能を明らかにする目的でC57BL/6マウスの11番染色体上に存在するCygb遺伝子のExon1をネオマイシン耐性遺伝子で置換してCygb欠損マウス(Cygb^<-/->)を作出した(特許公開2010-051277)。ジエチルニトロサミン(diethylnitrosamine,DEN)25ppmを4~6ヶ月投与した肝臓の発癌実験において、野生型Cygb^<+/+>では20%のマウスに肝腫瘍が発生したのに対して、Cygb^<-/->マウスでは100%で肝腫瘍(肝癌や肝血管腫)または肺腫瘍(扁平上皮癌や腺癌)が生じていることを確認した。0.05ppmという低濃度でも同様の傾向であった。肝臓にはシリウスレッド染色でコラーゲンの沈着がCygb^<-/->マウスで強く生じていることが判った。また、α-fetoprotein,interleukin-1,transforming growth factor-βのmRNA発現、PCNAなど細胞増殖に関連する分子発現が亢進していた。また、一酸化窒素の中間代謝産物であるONOO-の過剰産生が生じていることが判明した。この様な現在までの知見から、Cygb欠損は臓器の酸化ストレス制御を破綻させ細胞の癌化に寄与する可能性を見出してきた。すなわちCygbが癌抑制遺伝子であることを提唱している(特願2010-052244)。Cygbに関しては世界中でも数カ所の施設しか解析していない蛋白質であり、また、Cygb^<-/->マウスの作出は現在までのところ申請者らのみが成功している。本研究は独創性が高く、当施設でのみ可能である。
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