研究概要 |
本課題の目的は,満洲移民の入植をめぐる中国東北地域社会の変容を,黒龍江省樺南県(旧樺川県),吉林省徳恵県,遼寧省盤錦市(旧盤山県)の3つの地域の事例から分析することである。その際,とくに満洲移民の入植が戦後のそれぞれの地域に与えた影響について検討する。 2010年度には,1)8~9月,遼寧省档案館(瀋陽市)および吉林省図書館(長春市)で事例とする地域の地方志資料および戦後内戦期の公報,雑誌類を閲覧,収集した。また遼寧省盤錦市および吉林省松原市でフィールド調査を実施した。2)調査の概要の一部は「『満洲国』の水利建設:中国遼寧省盤錦市,吉林省松原市における調査から」(『近現代東北アジア地域史研究会NEWS LETTER』第22号)にまとめた。3)徳恵県に入植した元広島総合開拓団員に聴き取り調査を行い,あわせて同開拓団の役場資料を閲覧した。 以上の調査およびその分析によって,次のことを指摘しうる。盤山県では,満洲国期に朝鮮人,日本人の入植に先立って,大規模な「土地改良事業」が実施された。この入植地を戦後,まず国民政府が,次いで中国共産党が接収し,国営農場として再編していった。他方,徳恵県の入植地は,旧蒙地で,漢族農民によって開墾された土地だった。戦後,もとの漢族社会が回復されるが,その間に蒙地体制が解体され,第二松花江開発が実施された。これによって,隣接する郭爾羅斯前旗でも農地開発が可能になり,戦後,この旧蒙地は大規模な水田になった。満洲移民は,旧制度の解体や開発をともないつつ,それぞれの地域に変容を加えていったといえる。
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