近年の森林管理では、生物多様性や生態系機能の保持と木材生産を両立させることが重要視されている。本研究では、主に北欧の森林生態系に焦点をあて、現状の森林管理の問題点、及び、生態学的管理手法を分析した。また、日本列島の森林生態系との対比も行い、北方林、温帯林、亜熱帯林に一貫した森林管理上の生態学的問題点を明らかにした。野外調査では、森林を構成する樹木種の生体サンプルを収集し、葉と材の物理的・化学的機能特性を測定した。また、草本種の機能特性は既存情報から抽出しデータ化した。これらより樹木種の機能特性データベースを構築した。さらに、北欧と日本の植生調査データを収集・編集し、森林群集の種組成データベースを構築した。これらの二つのデータベースを統合し、人為インパクトを受けた二次林と原生的な森林の多様性を、分類学的指標と機能的指標に基づいて評価した。具体的には、伐採跡に成立した二次林の多様性指標のパターンから、現在行われている施業が群集集合パターンや生態系機能に及ぼす影響を定量した。この分析から、現状の森林施業の生態学的影響は、森林タイプによって異なることが判明した。特に、高緯度の北方林では、伐採による木野的多様性の劣化が顕著だった。この結果は、森林群集の機能的冗長性が機能特性や森林植生帯によって異なることを示唆している。群集の機能的冗長性の度合いを考慮することが、生態系の多面的機能の維持を目的とした森林管理において重要であると考えられた。
|