研究概要 |
本研究は、平成21年から施行された裁判員制度における精神鑑定とその法廷における結果報告についての実態を調査し、その適正な運用の方策を探り、提言をすることを目的としている。最高裁判所を通じた調査では、裁判員裁判制度が施行開始された平成21年5月から平成24年5月末までの裁判員裁判例(終結人員総数3,884人)のうち、105件で弁護人の請求による鑑定が実施されており、最終的に責任能力についての主張が取り下げられた5件をのぞく100件のうち、95件で法廷以前に鑑定人と法曹との間でのカンファレンスが行われており、90件についてはいわゆるプレゼンテーションが行われていた。このような実態に示されるとおり、裁判員裁判では、精神鑑定の経過と結果についての法定での報告に関して具体的な内容をあらかじめ整理しておく必要があると考えられた。そこで本研究では、このようにして準備がおこなわれる裁判員裁判での報告で、鑑定人がどのような範囲の説明をするのが適切であるかをそれぞれの法廷で準備、整理をしやすいような、責任能力判断に至る構造について、①精神機能や精神症状に関する情報の収集、②精神機能や精神症状(健常部分を含む)の認定、③疾病診断、④精神の機能、症状、病態、病理(健常部分を含む)と事件の関連性、⑤善悪の判断や行動の制御への焦点化、⑥法的な弁識・制御能力としての特定、⑦弁識・制御能力の程度の評価、⑧法的な結論からなる「8ステップ」による整理方法を提言するに至った。また、本研究を終了するにあたって、今後も変化していく可能性のある裁判員裁判制度における精神鑑定をめぐる状況について継続して調査をおこなうことができるよう調整を行い、新たな調査を開始することができた。
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