研究課題
平成24(2012)年5月21日、全国の主要都市を横断する金環日食が起きた。本研究は、この金環日食を題材に、児童や生徒たちが知的好奇心や探究心をもって、自然現象を安全に観察し、宇宙の中での地球や月の動きを理解・実感するために、(1)児童・生徒向けの安全な日食観察教材と指導案の開発を行うこと、(2)児童・生徒たちの観察支援と、実際の観察データを使ったサイエンスの検討である。(1) 金環日食の観察には、太陽光を適切に減光させないと目の障害(日食網膜症)が生じる。そこで、安全な観察を啓蒙・広報する組織「2012年金環日食日本委員会」(委員長:海部宣男、副委員長:大西浩次)を立ち上げた。これは、日本天文学会、天文教育普及研究会、国立天文台、JAXAなど8団体の横断的組織である日本天文協議会(会長:海部宣男)のWGで、4回のシンポジウム(平成23年度に2回、平成24年度に2回)行い、諸メディアを通じて安全性の確保を広く訴えた。また、日本眼科学会、日本眼科医会と連携し、日食を安全に観察するための方法及び注意事項等を「2012年5月21日 日食を安全に観察するために」としてまとめ、文科省より、学校及び社会教育施設に周知した。さらに、DVD、ポスター等を制作し、全国の学校及び社会教育施設に配布した。(2) 金環日食限界線研究会(48名)を組織し、金環日食における限界線(金環日食と部分日食の境界線)を児童・生徒の(日食メガネを使った)眼視観測で決めるプロジェクトと、ベリービーズのビデオ観測による太陽直径測定プロジェクトを実施した。日食メガネでは、3万人に近い児童・生徒、市民の参加があった。ビデオ観測による太陽直径測定では、過去の精度の10倍近い10-20kmの精度で太陽直径を決めると共に、児童・生徒、市民による眼視観測で、人工衛星と同等程度の精度で太陽直径を求める事ができた。
2: おおむね順調に進展している
研究目的の1つは、平成24(2012)年5月21日の金環日食を題材とした「安全な日食観察」の教材と指導案の開発を行うことである。このため、「2012年金環日食日本委員会」のメンバー、天文教育普及研究会・日食の安全な観察推進WGのメンバー、および国立天文台広報室が中心となって、指導書や、安全な観察のためのパンフレット、ポスター、DVDなどを制作した。本科研費をこれらの制作費に当て、科学技術振興機構(JST)のサイエンスウインドウ(誌)やJAXAの協力のもと、全国の学校及び社会教育施設に配布した。また、日本眼科学会、日本眼科医会と連携し、日食を安全に観察するための方法及び注意事項等をまとめ、文科省より、学校及び社会教育施設に配布した。これらにより、ある程度、目的を達し得たと考える。研究目的のもう1つは、児童・生徒たちの観察支援と、実際の観察データを使ったサイエンスの検討である。この点については、金環日食日本委員会で行ったシンポジウム等に集まった人々を繋ぎ、金環日食限界線研究会(48名)を組織し、金環日食における限界線(金環日食と部分日食の境界線)を児童・生徒の(日食メガネを使った)眼視観測で決めるプロジェクトと、高校生や市民を巻き込んだビデオ観測による精密な太陽直径測定プロジェクトを準備し、実施した。日食メガネでは、3万人に近い児童・生徒、市民の参加があった。ビデオ観測による太陽直径測定では、過去の精度の10倍近い10-20kmの精度で太陽直径を決める(速報)と共に、児童・生徒、市民による眼視観測で、人工衛星と同等程度の精度で太陽直径を求める事ができている(論文準備中)。児童・生徒、市民による眼視観測による高精度の観測が出来たことは、予想外の事であり、このような児童・生徒、市民の観測が、現時点でも最新科学になり得ることを示せた画期的な企画であったと考える。
(1) 2012年金環日食の教材開発、および、安全な観察への啓蒙活動に関する評価とまとめを行う。日食は、地球や月の動きを理解するための非常に適した観察対象であるが、目の障害(日食網膜症)などになる危険性があり、適切な日食観察教材と指導書を完成させる意味は大きい。今回の経験を生かして、スタンダードな教材を提案したい。(2) 2012年金環日食に於ける限界線観測では、児童・生徒、学生や市民による大規模観察のデータから最新の科学成果を引き出す事ができた。今後もこのような適切な観察方法の周知とデータ収集法のシステムを作れば、児童・生徒でも、科学成果が出せると期待する。この1例として、今年(平成25年)の初冬に出現する大彗星、アイソン彗星が良い対象になる。この彗星を対象に、市民の観察から、科学的成果が出せる観察法を検討すると共に、その観察を促すシステムを検討する。(3) 2012年金環日食のビデオ観測では、太陽直径を、日本の月探査衛星「かぐや」のデータを使う事によって、10-20kmの精度で決めることができた。ただし、太陽直径は、太陽の周辺減光曲線の理論曲線とフィットする事で決めている。しかし、理論曲線は、波長依存性を持っており、2012年の解析の正当性を示す上で、実際の周辺減光曲線を観測的に確かめる必要がある。そこで、2013年5月10日にオーストラリアで起きる金環日食を多波長で観測する事で、これらを確かめると共に、太陽直径の変動の有無などを確かめる。(4) 2014年春に、我々の銀河系中心に在る巨大ブラックホール天体Sgr A*に地球質量の3倍程度の星間雲が衝突する。この時、銀河系中心で何が起きるか、大論争になっている。電波、赤外線、X線で、この観測準備が始まっている。この天文学的な大イベントと連携した、「銀河系」の概念を一般市民に広げるための広報キャンペーンを検討する。
(1) 2013年5月10日にオーストラリアで起きる金環日食のベリービーズを多波長で観測する事で、太陽の周辺減光曲線を精密に測定するために、海外(オーストラリア)での観測を実施する。これらによって、2012年の金環日食をつかった太陽直径測定の正当性を確かめると同時に、太陽直径の変動の有無などを確かめたい。(2) 2012年5月21日の金環日食に関わる諸活動のまとめのための打合せの旅費、及び、教材のまとめなどのWEB公開と報告書の制作に使用する。(3) 昨年度の請求した助成金のうち、1月にお願いしたPCの納品が、3月末になったため、繰越金が生じた。(翌月(4月)の支払いとなったため、繰越額(240,248円)が生じた)。
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天文教育
巻: 25-1 ページ: 10-17
巻: 25-1 ページ: 43-45
巻: 25-1 ページ: 55-60
巻: 24-3 ページ: 2-6
第26回天文教育研究会集録
巻: 26 ページ: 98-101
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