研究概要 |
北海道東部,風蓮湖北東縁にある走古丹バリアースピット(HBS)は,総延長12.5kmの明瞭な分岐砂嘴である.写真判読によって5 列の浜堤が認識され,それらの分岐関係によって地形発達史が解読できる.我々は,2010年以降,浜堤を横断する5本の測線(H0, H1, H3, H4, H6)を設定し,地形学的・堆積学的研究を実施してきている.これまでの成果として,各浜堤間低地の掘削により,上位から7層の完新世テフラ,Ta-a(1739年),Ko-c2(1694年), B-Tm(929年)およびMa-b(10世紀), Ta-c(2.5ka), Ma-d(4.0ka),Ma-e(5.2ka)が見いだされ,これらを時間面として,約1000年オーダーでの地形発達史を解読することが出来た. 即ち,HBSが現在の位置に成立したのは,泥炭層基底の年代から5500 年前と推定されるが,その下位の海進期バリアーは現在浸食されて地形としては存在しない.5200年前と4000年前に大規模な海進が繰り返し起こり,その都度,広域に干潟環境が広がった.一方,最も若い浜堤であるBR1は17世紀以降に過去のバリアースピットの根元を浸食するように最も外洋側に出現し,西別川河口から岬の先端まで明確に連続する現在活動的な浜堤である.BR2はハルタモシリ付近からBR1と分岐し西別川河口まで連続する,この浜堤は17世紀に離水した可能性が高い.BR4の発生年代は9~10世紀と推定できる.走古丹の集落が立地するBR3の発生年代はおそらく12~13世紀と予測される. 南千島海溝沿岸域では500 年間隔で発生した巨大地震(Mw8.5)の存在が明確になり,特にこの地の地盤は17 世紀巨大地震時(もしくはその後)には1~2m隆起し,逆に地震以降現在まで8.5mm/年の速さで沈降し続けてきたことがわかっている.ゆえに,少なくともBR5よりも若い分岐砂嘴の出現には,南千島海溝の地震性地殻変動が関わっていた可能性がある.
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