研究課題
糸球体バリアー機能の喪失は、腎不全進行や心血管事故の強力な危険因子である。スリット膜は糸球体上皮細胞に備わる特殊に分化した細胞間接着装置であり、糸球体バリアーの要構造とされている。近年スリット膜を構成する分子がチロシンリン酸化されることが明らかにされ、バリアー機能がリン酸化カスケードの視点から解析されるようになった。しかし、この経路に関与する脱リン酸化機構の解明は遅れていた。本課題においては、研究代表者がここ数年解析してきた受容体型分子SIRP-α(チロシン脱リン酸化酵素SHPの基質)を切り口として、スリット膜のバリアー機能をチロシンリン酸化・脱リン酸化シグナルの側面から解明することを目的とした。SIRP-αはSHPS-1とも呼ばれる受容体型の膜蛋白であり、非受容体型のチロシンフォスファターゼであるSHP-1およびSHP-2の基質として同定された。細胞内にはチロシンリン酸化領域(ITIM)があり、ここにSH2を持つSHP-1もしくはSHP-2が結合する。このドッキング機能によりこれらの脱リン酸化酵素を細胞膜近傍に呼び寄せて活性化する働きを持つ。本研究課題において、我々は以下の知見を得た。1)SIRP-αは糸球体上皮細胞のスリット膜近傍を中心に発現する。2)SHP-1/2を結合できない変異SIRP-αを発現するSIRP-α遺伝子変異マウスでは、糸球体上皮細胞の形態異常を認める。3)SIRP-α変異マウスでは野生型マウスに比べて有意の微量アルブミン尿が検出され、アドリアマイシン負荷により大量の蛋白尿を誘導できる。これらの事実から、SIRP-αが糸球体バリアーの構造と機能の維持に重要な役割を担う分子であることが示唆された。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Am J Physiol Renal Physiol.
巻: 305 ページ: F861-70
10.1152/ajprenal.00597