研究課題/領域番号 |
23650546
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
池井 寧 首都大学東京, システムデザイン研究科, 教授 (00202870)
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研究分担者 |
北澤 武 東京未来大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (80453033)
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キーワード | 学習支援 / ディジタル教科書 / 記憶かけくぎ / 協調学習 |
研究概要 |
本研究では,学習者の学習力を引き出すデジタル教科書の新機能を創出することを目的としている.具体的には,学習者に合わせたインタラクティブな学習支援機能と,他人の考えや理解を共有する機能,および遊びの要素を付加する機能を実現することにより,生徒の学習活動を支援するデジタル教科書の実現を目指している.本年度は,インタラクティブな学習支援機能を進展させることと,遊びの要素を付加することを中心として開発を行った. 学習・記銘支援に関しては,PCおよびiPadに提示されたモデル教科書に対して,画像情報をインタラクティブに配置することにより,記憶の掛けくぎとする機能を高めた.即ち,教科書に選択単語・文章に関する画像を,画像検索サービスによりって取得し,ユーザが複数の画像から選択でき,さらにこの画像に対して,複数種類(図形化数字,平仮名の図形,人物)の記憶掛けくぎを任意のサイズで合成する機能,さらに合成した画像記憶掛けくぎを,教科書の中に配置する機能を実現した.この機能は,タブレット端末iPadにおいても実装を行った.ユーザスタディとして,モデル教科書の記銘効果と可用性に関して,高校生の被験者による評価実験を実施した.その結果,本機能を用いた場合に有意に高い再生率が得られることが明らかとなった. また,遊びを指向する要素として,学習空間の可視化,学習者のアバターの提示,音声読み上げの利用,アニメーションなどについて,予備的な評価を行い,有効な手法に関する探索を行った.更に,記銘再生における体制化を支援するために,学習者がストーリー(物語性)を付けることを支援する機能をあらたに導入した.人物を主語として動詞を含む文章を記銘単語に関して提示し,学習者が類義語や高頻度の例文から自ら選択する手続きを実装した.評価実験を行った結果,有効性を予備的に示すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載したことは,24年度の計画として設定したことの実現にほぼ相当しており,研究の進展経過として順調であるとみることができる.即ち,モデル教科書とその記銘学習支援機能を,PCとタブレットの両者において実装することにより,学習者が要点をインタラクティブな操作の中で記憶するための仕組みを実現することができた.インターネット画像検索と独自の系列画像の合成で生成する機能などが実現されたため,遊びの要素も含んだ形で,学習支援機能を与えることができている.これらの機能について,高校生を被験者とした評価実験も実施しており,その有効性を示す結果をえることができている.さらに,発展的な手法として物語を容易に構築する仕組みも新たに導入することができた. 複数の学習者の情報を扱う部分については,P2P通信によって,2つの端末で学習支援に関する操作データを共有する機能をテストする部分は実装している.この機能をより多くの端末で利用できるようにすることと,それによる他人の活動の共有の部分については,達成水準が十分でなかったため,研究期間を延長して,開発と評価を続けることとした. これらの成果から,目的として設定したことについては,ほぼ達成されていると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,インタラクティブなインタフェースをより使用しやすいものとすると同時に,評価実験を行うことにより,効果の検証と改善を引き続き行う.特に,実際の教科書に類似したページの中で,より使いやすい構成を検討することなどを含めた機能の発展を検討する. 更に,学習支援の中で学習活動の共有のための仕組みについて構築と評価を進める.協調的な学習活動には期待が寄せられているが,個別に使用する教科書の上での手法については,十分な検討が行われていない.本研究では,各学習者が記銘支援として用いた画像や記憶掛けくぎを共有化することにより,他人の学習活動からの刺激をうけること,学習支援操作の結果や経過を再利用することによる多様性と高速化への貢献などを考慮したソフトウェア開発を行う.主として,操作の観点から評価を行うが,学習環境としての有効性に関する予備的知見を得ることとする.評価実験については,長期の利用に基づいて行う必要があるため,初期的な評価を得るものとする.構築したソフトウェア全体としての効果として,記銘支援の結果のデータを蓄積する. これらの機能に関して,中心的な部分について,中等教育・高等教育を対象とした評価実験を実施できるようにソフトウェアの構成を調整する.これを用いて,関連の教育機関の協力を得て,評価実験を実施する.
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次年度の研究費の使用計画 |
システムソフトウェアの実装に関しては,これまでの開発資源を利用することにより,実施することとする.評価実験のためのタブレット端末については,被験者の確保の観点から,増加する必要があるため,数台の規模で追加購入する. 評価実験は,初等中等教育への適用も視野にいれ,引き続き高校生以下の生徒に協力してもらい実施する.その際の被験者への謝金に相当するものも計上する.学習内容への適合性を確認するため,大学生以上の被験者に関する実験も実施する. 研究成果を公開するための学会参加費用(旅費,登録費)を支出予定である.そのほか,論文投稿費を計上する.
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