研究課題/領域番号 |
23770257
|
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
柴田 幸政 関西学院大学, 理工学研究科, 博士研究員 (80314053)
|
キーワード | クロマチン / H2A.z / 細胞運命の維持 |
研究概要 |
私は、C. elegansでsingle cell levelで細胞運命を追跡する事で、アセチル化ヒストン結合蛋白質BET-1とヒストンアセチル化酵素MYS-1が、運命の維持に関わっている事を見つけている。本研究では、運命の維持に必要な新規な分子機構の作用機序を知るために、MYS-1とBET-1と共に働くクロマチン蛋白質を明らかにし、それらとBET-1、MYS-1がターゲット遺伝子座の挙動にどう関わるかを明らかにすることを目的としている。 これまでに、BET-1と共に働くクロマチン蛋白質として、ヒストンH2AバリアントHTZ-1/H2A.zを同定すると共に、HTZ-1が細胞運命を維持する際にceh-22/Hoxを抑制している事を明らかにしている。そこで、in vivoでceh-22/HoxがHTZ-1のターゲットである事を明らかにするために、ceh-22遺伝子座をsingle cell levelで可視化し、HTZ-1が核内でceh-22遺伝子座と共局在する事を明らかにした。更に、modENCODEのデータを解析したところ、ceh-22遺伝子座にHTZ-1が結合する可能性が示唆された。 また、これまでにHTZ-1やBET-1にアンタゴニスティックな効果を持つ分子としてH3K27脱メチル化酵素UTX-1を得ている。ここから、HTZ-1はゲノム上のH3K27のメチル化がない場所で転写抑制を行っている可能性が考えられる。そこで、ゲノムワイドにHTZ-1とH3K27のメチル化の関係を調べたところ、お互いに負の相関がある事がわかった。この結果は、HTZ-1はゲノム上のH3K27のメチル化がない場所に局在する事を示している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ、概ね計画通りに進んでいる。当初の計画どおり、HTZ-1のターゲットを同定する事ができた。さらに、ターゲットのクロマチン状態をin vivoで観察したところ、HTZ-1がceh-22を介して細胞運命の維持を行っているsomatic gonadにおいて、ceh-22が実際にHTZ-1のターゲットである事を強く示唆する結果が得られた。その結果、HTZ-1が細胞運命の維持を行う際に、直接転写抑制の維持を行っている、機能的なターゲットを同定する事ができた。これは、今後研究を行っていく上で、非常に有用な進歩である。 さらに、ゲノムワイドな解析から、HTZ-1はH3K27のメチル化レベルが低い領域に局在する事がわかった。HTZ-1とH3K9のメチル化の相関についても調べ、両者の間にも負の相関がある事を見つけたが、HTZ-1とH3K27のメチル化の相関に比べると、弱い相関であった。このことから、HTZ-1とUTX-1、H3K27のメチル化の関係がゲノムワイドで見られる一般的なものである事を明らかにしている。また、これはHTZ-1と抑制性のヒストン修飾の相関というものではなく、HTZ-1とH3K27のメチル化の両者に特異的に見られる現象である事も明らかにした。 更に、BET-1, HTZ-1と遺伝的に相互作用する分子としてCeBAP及びCePBAP複合体の構成因子と考えられる分子HAM-3とSWSN-6を単離した。これらは複合体内で調節因子として働いると考えられている。現在までに、HAM-3又はSWSN-6の欠損が、bet-1変異体と同様の表現型である、DTC及びアンカー細胞の過剰形成を引き起こす事を明らかにしている。これらは、BET-1, HTZ-1による転写抑制維持機構がどの様な仕組みで働くかを理解する手がかりとなると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から、HTZ-1が転写抑制を維持する事で、細胞運命の維持を行っている事が強く示唆されているが、HTZ-1がどの様に転写抑制を維持しているかについてはわかっていない。そこで、今後は、BET-1, HTZ-1を介した転写抑制維持機構の作用機序を明らかにしていく。現在、BET-1, HTZ-1の働きとして、転写伸長に必要なCDK-9/CyclinT複合体の転写開始部位付近へのリクルートを阻害するというものを考えている。そこで、この可能性を遺伝学的に検証すると共に、HTZ-1のターゲットであるceh-22遺伝子座で、CDK-9によってリン酸化されるRNA PolIIの状態を、抗体染色等を用いて調べていく。 C. elegansはBET-1相同分子、BET-2が存在する。このBET-2の哺乳類相同遺伝子、Brd4がCDK9/CyclinT複合体と結合するという報告があり、BET-2も同様にCDK-9/CyclinT複合体と協調して働く可能性が考えられる。そこで、この可能性についても検討していく。 さらに、BET-1やHTZ-1と相互作用する因子としてCeBAP, CePBAP複合体の構成因子と考えられるHAM-3, SWSN-6を同定しているので、これらの作用機序も調べていく。これまでにceh-22遺伝子の発現がBET-1やHTZ-1によって調節されている事がわかっているので、HAM-3やSWSN-6もこのceh-22遺伝子の発現調節を介して働いているのかどうかを検討する。もし、ceh-22を介して働いている場合、HAM-3, SWSN-6とCDK-9/CyclinT複合体の関係についても検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本計画では、C.elegansの形質転換体を作製し、その観察を行う。そこで、観察に必要な遺伝子組替え体の作製に必要な、分子生物学実験用試薬、C.elegans培養用品を購入する。また、遺伝子組替え体の観察に必要な、顕微鏡観察用品も購入する。また、形質転換体を効率的に作製するために、サーマルサイクラー、UVイルミネーター、ヒートブロックの購入も検討する。また、クロマチン状態の観察を行うために、市販の各種ヒストン修飾の抗体を用いて抗体染色を行うので、必要な抗体を購入する。さらに、クロマチン状態の調節に必要な遺伝子の働きを明らかにするために各種変異体を用いるので、stock centerから変異体を購入する。また、クロマチン状態を観察するために大量の顕微鏡写真を撮影するので、その画像を保存するメディアも購入する。各品目の数量等については研究の状況により必要量が変化する。 また、同様の分野の研究者と情報交換を行うため発生生物学会、分子生物学会、East Asia C. elegans Meeting、International C. elegans Meeting等の学会に出席するので、そのための、旅費を予定している。また、本年度の研究から得られた成果である、「ceh-22の転写抑制の維持を介して、HTZ-1がsomatic gonadal cellの細胞運命を維持している」という結果を雑誌上で発表し、その成果を内外に示すため外国語論文の校閲、研究成果投稿料を予定している。 以上の計画で、本年度の繰り越し分とあわせて使用していく。
|