研究課題
基盤研究(C)
交付申請書に記載した研究計画に基づき、ラットの飼育が可能となるまでに、計画を修正しながら、マウスによる実験計画の代替が可能かどうかをまず検討した。マウスにおいても利き手の機能的左右差は報告されている。しかしながら、マウスではラットと異なり、右利き、左利きの割合に偏りは低いとされている。利き手行動とカドヘリン20遺伝子発現の関連性の解析が可能であるかどうかを明らかにするために、マウス生後脳におけるカドヘリン20遺伝子の発現様式を in situ ハイブリダイゼーション法により解析した。以前の解析において、SDラット2週齢、4週齢、および8週齢では、大脳皮質の第4および5層のニューロンと、線条体の外側領域の一部のニューロンに発現が認められたが、今回の解析から、BL6の近交系マウス脳では、カドヘリン20遺伝子の発現パターンがSDラットと異なっている部分が存在した。例えば、2週齢、4週齢マウスの大脳皮質ニューロンでの発現は、ラットと同様に第4層、5層ニューロンに認められたが、線条体外側部ニューロンでの発現が認められなかった。一方で、マウス脳では、カドヘリン20遺伝子は、大脳灰白質、脳梁、および線条体のオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)と考えられる集団にも特異的発現が検出された。このような結果から、大脳皮質―線条体経路および利き手の側方化に注目した実験計画には、マウスを適切に用いることはできないと判断した。しかしながら、今回の解析を通じて、マウスでは線条体外側部ニューロンでの発現が見られないことと、マウスでは利き手の側方化がほとんどないことは、ラットにおいてカドヘリン20遺伝子の線条体での左右対称、非対称発現と利き手の側方化での相関性を示唆するものと考えられる。
4: 遅れている
24年度は、これまでほとんど明らかにされていない脳機能の左右非対称局在・側方化の分子メカニズムについてアプローチするために、利き手に注目し、その側方化とカドヘリン20遺伝子の線条体、大脳皮質における非対称遺伝子発現との関連性の解析を計画した。自治医科大学への異動に伴い、所属研究室でのラット飼育実験施設の調整などをスムーズに進めることができず、ラットの飼育ができなかった。交付申請書に記載した、実験計画を修正し、ラット飼育が可能となるまでに、マウスでの代替実験を行った。しかしながら、実験結果からマウスではカドヘリン20遺伝子の線条体外側部での発現パターンが異なり、実験計画を遂行するにはマウスでの実験には限界があることが明らかになった。これらの結果を受け、全体的に判断すると交付申請書に記載した研究の目的を達成するための24年度計画については、遅れていると自己評価せざるを得ない。
25年度は、年次計画を修正する。具体的には、SDラット系統以外の近交系ラットでの線条体のカドヘリン20遺伝子の発現を確認し、ラット飼育環境を調整する。8 週齢のラットで利き手テストを実施し、その後、組織化学的解析を行い、利き手と遺伝子発現の関連性を効率よく解析する。交付申請書に記載した25年度の計画についても、上記の実験とともに遂行する。
24年度は実験計画の遅延に伴い、ラット購入費および飼育費経費に予定していた経費について、25年度への繰り越し金が生じた。25年度は、繰り越し金はラット購入費および飼育費に使用し、初年度交付申請書に記載した24-25年度の使用計画を実施する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
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