研究概要 |
アミノアルカンの窒素原子隣接位炭素原子上の水素原子を脱プロトン化してアニオンを生成させ、求電子剤と反応させる手法は有機合成化学において非常に魅力的な手法である。しかし、これまでアミノアルカンのこの位置の炭素上の水素原子を直接的に活性化して反応に用いることは、窒素原子上の水素原子の酸性度が炭素原子上のそれよりも高いことから非常に難しいとされていた。そこで筆者は、フルオレニリデン基の電子安定化能による窒素原子隣接位のアニオン安定化に着目し、アミノアルカン同士でのフルオレニリデン基の分子間移動を活用することにより、無保護のアミノアルカンの隣接位炭素上における求核付加反応を触媒的に行うことを計画した。昨年度の研究では、グリシンエステル塩酸塩のα,β-不飽和カルボニル化合物への1,4-付加反応において、塩基存在下フルオレニリデン基が触媒的に機能する可能性を見出している。そこでこの知見に基づき、本年度はこの触媒反応の収率向上の検討を行い、本概念の確立に向けた研究を行った。種々検討を行ったところ、α,β-不飽和カルボニル化合物の構造を最適化することによって、目的の反応の収率向上が見られた。本検討により、フルオレニリデン基を触媒的に用いる無保護のアミノアルカン類の直接的触媒的付加反応の新たな可能性を見出すことができた。 その一方で本研究の遂行中、このフルオレニリデン基の性質を活用するイミン-イミンカップリング反応を新たに見出した。イミン-イミンカップリング反応には、従来化学量論量の反応剤を用いることが必須であったが、フルオレニリデン基の異性体であるフルオレニル基で保護されたイミンを基質として用いることによって、異なるイミン間での交差カップリング反応が触媒量の塩基存在下効率的に進行することを明らかにした。本反応は、触媒的交差型イミン-イミンカップリング反応の初の例である。
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