研究課題
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)は、常染色体優性遺伝形式をとる最も頻度の高い遺伝性筋疾患の1つである。FSHDは第4染色体テロメアに存在する3.3kbのリピート配列D4Z4の数10個以下(正常=11~100以上)に減少することによる疾患であることから、エピゲノム変化が病態と深く関わっていることが示唆されている。今年度本研究では、超高密度ゲノムマイクロアレイを用いて、D4Z4リピート数が同じで臨床重症度に差のある親子間のゲノムDNAを用いて網羅的にDNAメチル化の程度を解析した。その結果、筋症状への関与が示唆される遺伝子群にはDNAメチル化に明らかな差違は見いだされなかった。ゲノムマイクロアレイは、サブテロメア領域の評価が困難である事から、D4Z4リピート近傍のDNAメチル化修飾の程度をバイサルファイトシーケンス法によって直接評価することを試みた。D4Z4リピート近傍の塩基配列は他の複数の染色体上に相同性の極めて高い領域が存在する上、極めてGC含量が高い。そこで疾患責任領域と考えられる4番染色体上のD4Z4リピート領域が、他の染色体上類似配列と比べてきわめて短いことを利用した。まずゲノムDNAを制限酵素処理した後電気泳動し、予測されるサイズの領域を切り出し、直接シークエンス法を用いて4番染色体由来であることを確認した後、バイサルファイトシーケンスを行った。その結果、D4Z4領域のDNAメチル化と臨床症状の間には負の相関がみられ、臨床的に重症の患者はDNAのメチル化が低下していることを見いだした。一方、臨床的に軽度から中程度の患者ではDNAメチル化の程度は多様であった。本研究は疾患に関与する染色体領域特異的なDNAメチル化の変化を検討しうる方法を確立したものであり、今後、病態解析を行う上で極めて有用な成果であると考える。
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