研究課題/領域番号 |
24700198
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
中島 翔太 山口大学, 理工学研究科, 助教 (20580963)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 人物状態検知 / プライバシー保護 / Obrid-Sensor / 輝度分布センサ |
研究概要 |
家庭内において,高齢者の生命に関わる重大な事故が発生する場所として,最も多く挙げられるのがトイレや浴室である。しかし,そのような場所ではプライバシーの観点からカメラを設置することができない。 そこで本研究では,ロッドレンズとラインセンサを用いたプライバシーを侵害しない人物状態検知センサ(以下,輝度分布センサ)を開発し,人物の位置及び状態を監視可能なセンサシステムを提案している。これまでの研究において,1次元輝度分布のデータから,監視対象と背景の差分を計算し,そのピークや重心の位置を求めることで,人物の移動や転倒・直立状態を検出できることが確認できている。しかし,このセンサシステムに関する知識がない場合,輝度分布から人物の状態を把握するのは難しい。また,高齢者等の被監視者が助けを呼ぶために手を振る,転倒はしていないがうずくまっているといった場合には,人物の状態を的確に検知することは難しい。 そこで本年度では,人物状態を直感的に把握するための監視システム及び,複数の人物の位置や移動が把握可能なアルゴリズムの開発を行った。具体的な手法としては,輝度分布センサを複数個組み合わせて得られる1次元輝度分布から画像を再構成し,監視者が人物状態の再構成画像をモニタで目視できるようなシステムの開発を行った。この結果,被監視者に異常な行動が表れた場合に,監視者は現場に直ちに向かうことが可能となる。 また,本センサシステムの汎用性を高めるため,多様な使用環境下に対応した試作機の設計を行った。今回は,輝度分布センサを壁に取り付ける場合は部屋の奥行きや形状,天井に付ける場合は床までの距離などの環境に合わせて,理想的なレンズの形状とセンサのサイズを想定して設計を行った。これらの結果を元に,次年度ではフィールド試験により有用性を確認する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の大きな研究目標として,「複数の輝度分布からの人物状態画像の再構成」がある。この手法は,複数の輝度分布センサを用いて得られたデータから画像を作成し,利用者が人物状態を直感的に把握可能にするものである。従来法では,PC上によるシミュレーションで確認を行なっていたが,今回は2つの輝度分布センサから得られる輝度分布から画像の再構成を行うフィールド試験を行った。実際に開発した輝度分布センサを用いて,人物の状態を画像として取得することができた。これらの結果から,監視者が再構成された画像をモニタリングすることで,直感的に人物の状態を把握することが可能になることが分かった。 また,平成25年度の多様な環境で,実機によるフィールド試験を行うために,ロッドレンズやCMOSセンサの種類等の最適な設計を行いおおむね正しい動作をしていることが確認できた。ただし,輝度分布センサの設置場所において,検知角度・範囲においては検証が不十分であるため,平成25年度も引き続き最適な設計をしていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
従来の輝度分布センサは,光を集光する役割をするロッドレンズや受光センサの種類を経験則で決めている。そのため,部屋の形状や明るさの変化などの輝度分布センサの使用環境が異なると検知することができない場合があった。そこで平成24年度に設計した輝度分布センサに使われるロッドレンズ及びCMOSセンサのデータを基にして,センサ感度や精度の向上を図るためのレンズ及び受光センサ選定を行い,より最適な設置場所や検知角度・範囲等の検証を行う。そのため,輝度分布センサを壁に取り付ける場合には,部屋の奥行きや形状,天井に付ける場合は床までの距離を考慮して,理想的なレンズの形状とセンサのサイズや配置を求めるための光学シミュレーションを行う。これらの実験結果から,改良された輝度分布センサを開発する。 また,従来の検知アルゴリズムでは,輝度分布センサから得られた1次元輝度分布のデータを直接使用していたため,部屋全体の明るさや背景のわずかな変化による環境ノイズに影響されやすい場合があった。そこで,多様な環境に対応可能なアルゴリズムを作成するために,輝度分布にフィルタ処理等を行なった上で抽出対象の特徴量が含まれる輝度分布の差分を取得する際の時間や条件を指定し,輝度分布を環境の変化に頑健なアルゴリズムの開発を行う。 その後,本研究で作成したアルゴリズムを用いて,病院や老人ホーム,公園,学校等の公共施設においてもフィールド試験を行い,実用化に耐えうる輝度分布センサの研究開発を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由としては,輝度分布センサの最適設計において,検知角度や範囲の検証が完了しておらず,開発に必要な光学部品の発注が遅れているためである。 平成25年度では推進方策の1つである,多様な場所でのフィールド試験を行うために,最適設計された輝度分布センサユニットを開発する。これまでには,輝度分布センサから得られたデータを取得し,PCで計算を行なってきた。しかし,実際にセンサユニットを使用する現場では,長期間複数の箇所へ設置するために小型化が必要である。 そこで,輝度分布センサユニットのセンサ部を開発するための光学部品,電子部品,コンピュータ部品を主に購入する予定である。 申請時の計画では平成25年度に,PCによる高負荷な計算が必要な部分については小型化が可能なFPGAキットを購入して置き換え,開発する予定であった。このFPGAキットの代わりに,近年発売された,ARMプロセッサを搭載したシングルボードコンピュータ(Raspberry Pi)を購入にする予定である。その理由として,このコンピュータは,小型で入出力機能も充実しているため柔軟性に優れ,Linuxベースであるため開発もしやすいという利点があるためである。 また,研究成果を発表するために論文投稿料等にも使用する予定である。
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