研究課題/領域番号 |
24700810
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研究機関 | 名古屋学芸大学 |
研究代表者 |
間崎 剛 名古屋学芸大学, 管理栄養学部, 講師 (10387912)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ダイズ(大豆) / 種子貯蔵タンパク質 / アレルゲン / 発芽 / プロテアーゼ / 酵素タンパク質 |
研究概要 |
ダイズ種子(大豆)は植物性の良質なタンパク質源であり、その加工特性や栄養価値を活かして様々な加工食品や栄養補助食品に頻用されている。しかし、大豆にはアレルギーを誘発するタンパク質(Gly m Bd 30K、Gly m Bd 28K、β-コングリシニンのα-サブユニットなど)が含まれており、その除去や低減化が求められている。一方、植物種子に含まれるタンパク質は窒素源やエネルギー源として芽生えの成長を支えるために貯蔵されており、それらは発芽に伴って活性化する種々のプロテアーゼにより分解されると考えられている。そこで我々は、大豆アレルゲンを特異的に分解するプロテアーゼを単離・同定し、その酵素を利用した低アレルゲン化方法を開発することとした。 そこで最初に、人工気象機内で発芽・生育させた様々な生育日数のダイズ個体からタンパク質を抽出して、種々の解析を行った。その結果、ダイズ個体に含まれるタンパク質は生育に応じて減少することが明らかとなった。このことから、種子の発芽と芽生え個体の成長に応じて種々のプロテアーゼが活性化されることが示唆された。 次に我々は、様々な生育日数のダイズ個体から抽出したタンパク質溶液に含まれる大豆アレルゲンを、イムノブロット法により検出した。その結果、ダイズの主要なアレルゲンのうちβ-コングリシニンのα-サブユニットとGly m Bd 28Kは播種後3日目から5日目にかけて顕著に減少することが明らかとなった。それに対して、Gly m Bd 30Kは播種後14日目から16日目にかけて顕著に減少していた。これらのことから、大豆アレルゲンのうちβ-コングリシニンのα-サブユニットとGly m Bd 28Kを分解するプロテアーゼは播種後4日目の個体に、Gly m Bd 30Kを分解するプロテアーゼは播種後15日目の個体に含まれていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
交付申請書においては本年度のうちに大豆アレルゲンを分解するプロテアーゼを単離・精製する予定であったが、実際にはそれに至らなかった。その理由の主たるものとして、購入予定の機器として計画調書に記載していたタンパク質精製システム(Fast protein liquid chromatography)の購入経費(192万円)が、初年度の直接経費(160万円)から捻出できなかったことが上げられる。 そこでタンパク質精製システムを用いずに、大豆アレルゲンを分解するプロテアーゼの単離・精製を目指した。具体的には、アレルゲンが顕著に減少しつつある生育日数のダイズ個体から抽出したタンパク質溶液を、硫安沈殿、等電点沈殿、オープンクロマトグラフィーにより分画し、それらの各画分の大豆アレルゲン分解能を調査した。しかし、どの画分においても有為なプロテアーゼ活性は検出されなかった。 このことから、大豆アレルゲンを分解するプロテアーゼは変性、失活しやすい酵素であり、低温で短時間に精製する必要があると思われる。この問題は、次年度の研究費を用いてタンパク質精製システムを購入し、それを用いた分画を試みることで解決できるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
アレルゲンが顕著に減少しつつある生育段階のダイズ個体よりタンパク質を抽出し、その溶液を各種クロマトグラフィー(イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー)により種々の画分に分画する。次に、得られた画分と大豆アレルゲンの精製溶液とを混合する。種々の画分と精製アレルゲンとの混合溶液のアレルゲン量を、大豆アレルゲンに対する特異抗体を用いたイムノブロット法により調査することで、アレルゲンを分解するプロテアーゼを含む画分が同定できると考える。 上述の方法でアレルゲンを分解するプロテアーゼを含む画分が同定できなかった(プロテアーゼ活性を持続したまま分画することが困難だった)場合には、以下に述べる実験を行う。まず、アレルゲンの半減期に相当する芽生え個体より調製したタンパク質溶液にタンパク質架橋材を加えることでアレルゲンとプロテアーゼとの間に共有結合を形成させる。そして、大豆アレルゲンに対する特異抗体を用いた免疫沈降実験を行うことによりアレルゲンとともに沈殿するタンパク質を、アレルゲンを分解するプロテアーゼの候補とする 次に、アレルゲンを分解する精製プロテアーゼ、もしくはその候補と思われるタンパク質のアミノ酸配列をプロテインシーケンスにより部分的に決定する。そして、そのアミノ酸配列から予測して作製したdegenerateプライマーを用いてcDNAの内部配列を明らかにし、さらに3’ RACEと5’ RACEにより全長mRNA配列を決定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
大豆アレルゲンを分解するダイズ内在性プロテアーゼの単離・精製のために、アレルゲンが顕著に減少しつつある生育段階のダイズ個体より抽出したタンパク質溶液を分画するシステムとして、タンパク質精製システム(Fast protein liquid chromatography)一式を購入するために、研究費を使用する。 そして、アレルゲンを分解するダイズ内在性プロテアーゼをコードする遺伝子を、degenerate PCRやRACE法で同定するために必要なDNA増幅装置としてサーマルサイクラーを購入するためにも、研究費を使用する。 また、それまでに得られた研究成果(大豆アレルゲンを分解するプロテアーゼの遺伝子、アミノ酸配列、発現時期や部位)を学会の本大会、並びに投稿論文として発表するための経費としても、研究費を使用する。
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