研究課題/領域番号 |
24730409
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
定池 祐季 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40587424)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 災害復興 / 津波災害 / 奥尻 |
研究概要 |
H24年度は、研究計画に基づき、資料調査、聞き取り調査を主とした調査を実施した。資料調査については、『奥尻町史』『新奥尻町史』、北海道南西沖地震に関わる各種記録集や報告書、観光協会、商工会、漁業組合、奥尻町役場資料などから、奥尻町の災害前後の主要な出来事、人口動態や産業の動向(漁業生産額や組合員数の推移、観光客入り込み数の推移など)の再整理と不足している新規データの補足を行った。また、補足として役場職員や、奥尻町災害復興計画策定に関わったキーパーソンへの聞き取り調査を実施した。 さらに、地区遺族会の追悼行事の準備過程から参与観察に入り、追悼のあり方の変遷と現在の状況について調べ、日本社会学会にて学会発表を行った。また、津波により壊滅的被害を受けた稲穂地区の住民と当時を知る教員への聞き取り調査を実施し、被災直後の情報と被災者のライフヒストリーの収集を行った。 奥尻町での現地調査の際には、研究協力者である奥尻町の学芸員、稲垣森太氏にインフォーマントの紹介、文献資料、奥尻町教育委員会に寄贈された被災者からの資料閲覧に当たって協力を得た。 加えて、現在の津波被災地が直面する課題や復興プロセスとの比較を行うため、東北地方の津波被災地でも現地調査を行い、聞き取り調査、資料調査を実施した。 H24年度の調査の成果については、日本災害情報学会・日本社会学会での学会発表に加え、学会ニュースレターへの寄稿、防災担当者向け研修や一般市民向けの講演等の中で発信を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H24年度は資料調査と聞き取り調査を重点的に行った。奥尻町内外での資料調査については、概ね当初の予定通りに進めることができた。その一方で、聞き取り調査については予定より遅れている状況である。 聞き取り調査は、奥尻町内や札幌市内を中心に、町の災害復興のキーパーソンを対象として複数回実施した。それにより奥尻町の復興プロセスの全体像に関する資料を充実させることができた。しかし、被災者の生活再建プロセスを明らかにするための個人のライフストーリーの収集は、当初の予定通りできなかった。その理由としては、その後の調査のために早い段階で聞き取り調査を行う予定であったキーパーソン達が、東日本大震災後の視察対応疲れや、災害からの生活再建過程で蓄積された長年の疲労などから、病気等で入院、静養を余儀なくされたケースが散見され、予定を変更せざるを得なくなったことがあげられる。 そのため、25年度の早い時期にH24年度に予定していたキーパーソン聞き取り調査を実施する予定である。その上で、ライフヒストリーの収集に努める所存である。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度は、研究計画に基づき、次の2点に重点的に取り組む。①ライフヒストリーの収集により、被災者の生活再建過程を明らかにする。②奥尻町全世帯を対象にアンケート調査を行い、個人、家族・世帯、地域社会、町(行政)の生活再建状況や復興観の全体的傾向をを探る。 ①ライフヒストリーの収集の収集にあたっては、奥尻町内で壊滅的な被害を受け、土盛りや高台移転を行った稲穂、松江、青苗地区の住民を中心にインタビューを実施する。しかし、災害後に引っ越しをした人がいることや、被害の程度による生活再建過程の比較を行うため、島内外への移転者、比較的被害の軽かった被災者についてもインタビューを行う予定である。 ライフヒストリーの収集方法については、「問わず語り」にインフォーマントに人生を語っていただき、その音声を記録しテキスト化しつつ、適宜本人に確認を取りながら、避難所から仮設住宅に移った時期、住む場所を決めた時期、漁船を手に入れた時期、ローンの返済が終わった時期などの節目を個人の生活再建のカレンダーとして、可視化してまとめていく。 ②質問紙調査は奥尻町全世帯を対象にしたアンケート調査を予定している。設問は、木村他 (2004)や林春男編(2010)などの先行研究と、事前に得られたライフヒストリーのデータを参考に作成する。そして、被災した人々がどのようなきっかけで生活再建の実感を持つようになったのか/未だなっていないのかという点を明らかにする。その上で、地区別・属性別といった、様々な区分の復興カレンダーを示し、奥尻町民の復興過程の概要を明らかにすることを目指す。 また、必要に応じて資料調査を行い、奥尻町の復興プロセスの補足を行う。 調査研究の遂行にあたっては、研究協力者の協力と、学内外の研究者との情報交換などを元に、適宜手法等の検討と改善を試みていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
(設備備品費)H24年度に購入を見送った調査用のノート型PCの購入と、資料調査のための災害社会学、津波災害、災害復興等に関する書籍・文献資料を購入する。 (消耗品)インタビュー内容の質的分析のためのQDAソフト、借用資料をテキスト化するためのOCRソフト、データや資料を保存するためのメディア、文房具の購入を予定している。 (旅費)現地調査(奥尻町周辺、比較のための東北地方の津波被災地)の費用、学会発表や研究会参加のために使用する予定である。 (人件費・謝金)聞き取り調査のうち、ライフヒストリーに関わる重要な内容については、H24年度同様テープ起こしを委託する。また、収集資料の整理のための謝金を検討している。 (その他)貸借資料の複写、奥尻町民を対象とするアンケートの配布・回収、データ分析に関わる費用の使用を予定している。
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