研究実績の概要 |
熱帯アジアでは、畜産・人間生活などからの排水流入に加え、洪水により水環境が撹乱され、種々の起源から抗菌剤、薬剤耐性菌の混合が起こる。本研究は、こうした環境で耐性遺伝子と薬剤濃度をモニタリングし、水畜産統合農業環境、市内河川、洪水で排水や汚物が混合される水環境の実態を解明することを目的とした。 4年間、タイの人口密集地帯のバンコクとその周辺、および農村地帯である南部トラン県を対象として調査を行い次の成果を得た。また、最終年度にはタイの共同研究者を招聘してフォーラムを開催した。 1)薬剤汚染実態では、バンコク周辺ではサルファ剤が優占していた。市内運河、チャオプラヤ川、バンコク湾ではサルファメトキサゾールが優先しており、これは他の熱帯アジア諸国の下水の組成と類似していた。一方、タチン川ではサルファメタジンが優占した。またオキシテトラサイクリンの割合も市内運河に比べて高かった。これは、家畜排水の寄与が反映されているためと考えられた。 2)畜産排水起源の耐性菌解析では、セファロスポリン耐性遺伝子である、blaCTX-M55、blaCTX-M14、blaCMY-2を異なる地点の大腸菌が保有していた。また、エロモナス属細菌がモニタリングに適した菌群であることが分かった。遺伝子の環境間移動では、ハエが薬剤耐性プラスミドを広域に伝播するベクターであることが示唆された。 3)耐性遺伝子の定量解析では、バンコク周辺ではサルファ剤耐性遺伝子sul1, 2, 3,およびテトラサイクリン耐性遺伝子tet(M)が1E-2の高濃度で全群集中に検出されるが、培養菌はsul3を保有していないことが分かった。また、タイの特徴は、耐性遺伝子が、畜産・下水排水では高濃度だが、海水中では極めて低濃度だったことである。本研究は、タイでの薬剤・細菌・遺伝子汚染の特徴を定量的に明らかにした初めての研究である。
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