本年度は、昨年までの調査の過程で新たに所在が判明した海外の生人形を中心に実見、および資料収集を行い、海外の流通に携わった生人形史の制作の実態の解明に努めた。 アメリカのリプリー博物館にて、1870年代に人形師イトウによって制作されたと伝えられる等身大の男性像を実見し、関連する新聞資料等を収集し検討を進めた。イギリスのグラスゴーの博物館では、1915年に寄贈された安本亀八3代目による成人男女像について、46人の寄贈者に関する資料をもとに、日本とグラスゴーの当時の交流、生人形師への注文状況について検討を進めた。また大英図書館での資料解読により、前年に調査した花沼政吉作品が1940年代に所蔵者によって購入されていたことが判明した。 ドイツのハイデルベルクの民族学博物館では、女性頭部や小像の所在が新たに判明し、その一部は菊人形との関連性が認められるものであった。その入手先のひとつと考えられるハンブルクの美術商ウムラウフがドイツの博物館へ多くの民族学的物品を売るために作成した目録や関連資料の収集を行い、制作年や制作者への特定を進めた。またロシアではニコライ皇子の収集品のなかに、日本訪問時の1891年に京都の川島織物より寄贈された作品を実見し、1体の制作者が京都の山下光一なる人形師であることが、解体中の作品の記銘より判明した。さらにロシアでの展示公開の記録写真やカタログ資料をもとに、受容についての検討を進めた。 国内においては、熊本市現代美術館が新たに収蔵した女性像を実見し、情報を収集した。また国立国会図書館、展覧会において、生人形および見世物の関連資料の収集を行った。これらの調査を通して、海外の博物館所蔵の生人形作品の購入経路、関係する美術商が判明し、生人形の海外への流通の一部が明らかとなった。
|