精神疾患の中でも、強迫スペクトラム障害に分類される疾患は、セロトニン神経系の異常を背景とした予測と意思決定の障害が病態の基盤にあると推測されている。本研究では、共通の神経基盤が想定されているが、異なる症状を呈する神経性大食症と抜毛症を対象に報酬課題遂行中の脳活動を機能的MRIを用いて測定し、データを数理モデルに基づいて解析することで、短期、及び長期の報酬予測に関連する脳領域を明らかにし、健常者との違い、及び疾患毎の違いを明らかにすることを目的とした。また、同時に安静時機能的MRI、構造画像、拡散テンソル画像を撮像して数理モデル解析により得られた結果と合わせて解析することで、多様な精神症状がどのように予測と意思決定の障害と関連するかを包括的に解明することを目的としている。 2015年度はこれまでに収集したデータのうち安静時fMRIについて解析した結果を論文として報告した。強迫性障害患者においては、健常者と比較して前頭前野から線条体への入力が過剰になっているという結果であった。これは、強迫性障害において健常者と比較して衝動的な意思決定がなされる傾向にあることに関連している可能性がある。われわれが先行研究で報告した、眼窩前頭皮質と背側線条体の安静時fMRIで測定した機能的結合が強迫性障害患者で強まっているという結果とも一致するものであると共に、その入力の方向が前頭前野から線条体の方向であることを新たに明らかにした。 このような神経学的所見を参照しつつ連携研究者の田中と酒井を中心に強迫性障害の症状をモデル化して領域会議にてポスター発表を行った。
|