研究概要 |
本研究は,分子内に二つの環状配位子を含む二核化配位子を設計し,その複核金属錯体における複核サイトの有効利用を目指した構造の構築およびその応用を目的としたものである。以下の成果が得られた。 1.二つのジメチルサイクラム環を6-位の炭素の位置で,オルト-,メター,およびパラ-キシリル基で連結した新しい二核化配位子を合成した。 2.主としてオルト-キシリル基連結した二核化配位子(L)について,ニッケル(II),亜鉛(II),コバルト(III),カドミウム(II),ルテニウム(III)などの遷移金属イオンを含む十余種の新規複核錯体を合成した。 3.良好な単結晶が得られた3種の二核錯体についてX線構造解析を行った。いずれの場合にも,二つのジメチルサイクラム環は当初の意図どうり対面型(face-to-face)構造をとっており,金属イオン間にはハロゲン化物イオンや炭酸イオンが架橋配位し,金属間距離は5.4〜5.8A程度に保たれていることが解った。 4.上記のようなねらいどうりの構造の構築は,環状配位子部分に意図的にメチル基を導入することによって達成されている。メチル基をもたない類似の二核化配位子を合成し,その複核ニッケル錯体のX線構造解析を行い,この分子設計指針の正しさを検証した。 5.複核サイトの利用については,つぎのような成果を得た。 (1)亜鉛(II)錯体[Zn_2(L)]^<4+>は弱アルカリ性水溶液中で空気中の二酸化炭素を取り込み炭素イオン架橋錯体を与える。 (2)塩化物イオン架橋ニッケル(II)複核錯体[Ni_2(μ-Cl)Cl_2(L)]^+は,結晶状態において・・-Ni-Cl-Ni-Cl-Ni-・・型の疑似的一次元鎖状構造を持ち,ニッケルイオン間には強弱二種類の反強磁性的相互作用が働いている(J=-48.2(3),J'=-11,2(3)cm^<-1>)。
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