研究概要 |
日本列島全域の山地流域における河川縦断面形状を,GIS(地理情報システム)とデジタル地形情報(数値標高モデル,DEM)を用いて抽出し,さらにHayakawa and Oguchi,2006の手法を用いて,可変計測区間長により異なる河床勾配の値を得て,局所的に急勾配となる遷急区間の客観的認定を行った。これにより,日本の主要な山地河川における遷急区間の空間分布が初めて定量的に明らかとなった。 得られた遷急区間の空間分布について,地形,地質,テクトニクス,気候の各条件との関係を,各種空間データを入手・整理した上で,GISとデータベースソフトウェアを用いて分析を進めた。その結果,遷急区間の分布は地形条件に強く規定されることが判明した。とくに河川勾配や河川の主要合流点との関係が明瞭であり,遷急区間の形成には水理的要素が大きな役割をもっことが示唆された。この事実は遷急区間の形成要因としては従来ほとんど検討されてこなかったものであるが,日本列島の山地流域においては水理的作用により形成される遷急区間が卓越して存在すると考えられ,河川縦断面形の動的平衡状態とも関連して,地形学における新たな知見をもたらしたと言える。 一方,日本で最大級の遷急区間である富山県立山・称名滝の後退速度について調査を行った。これにより,侵食速度の規定要因の解明に向けたデータの蓄積がなされた。またこの後退速度の法則は,日本列島における遷急区間について普遍的に通用するものと考えられ,先の広範囲で抽出された遷急区間の形成時期についての検討にも用いられ,完新世気候変動との関連も議論された。 また,地形学における地理情報科学の応用事例としての簡易レーザー距離計を用いた地形測量手法についての報告を行った。この手法により,調査の期間や機材が限られる地域においても,詳細な地形図を迅速に作製することが可能となる。
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