本研究では、硝酸コバルトとアゾ色素の熱レンズシグナルの溶媒効果を検討した。その結果、硝酸コバルトとアゾ色素であるアシッドレッド27の熱レンズシグナルは水溶液中では同程度であるが、溶媒にエタノールを用いた場合はアシッドレッド27の熱レンズシグナルは硝酸コバルトに比べ小さい値を示した。またエタノール、蒸留水の混合溶媒を用いたときは、溶媒中のエタノールのモル分率の増加に伴い、硝酸コバルトとの差は大きくなってた。同時に測定した吸光度は、熱レンズシグナルの減少に対応した低下が確認され、熱レンズを形成させるためのレーザー光照射による吸光度の低下が観測された。また用いたレーザーの出力が小さい場合は吸光度の変化はなく、出力が大きい場合にのみ吸光度の低下がみられた。これらの結果から、この主な原因は、アゾ色素の発色団である-N=N-結合のシス-トランス転移を伴ったフォトクロミズムによる吸光度の変化であるとがわかった。さらに様々なアゾ色素の誘導体を用いたところ、熱レンズシグナルの低下、つまりフォトクロミズムはアゾ色素の-N=N-結合に隣接する芳香族環についている官能基の数に影響されることがわかった。このことは置換基によるシス-トランス転移の立体障害で説明できる。 この様なフォトクロミズムを示すアゾ色素は、硝酸、亜硝酸イオンの定量の用いられており、これの高感度化のため熱レンズ効果を用る場合がある。しかし、このような場合、アゾ色素のフォトクロミズムが引き起こす熱レンズシグナルの強度変化について十分考慮する必要がある。本研究ではこのことについて指摘し、さらに、アゾ色素のフォトクロミズムについて熱レンズ法を用いて検討した。
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