本年度は、1.fosに対するアンチセンスヌクレオチド(ASN)の内側視索前野内投与により排卵性黄体形成ホルモン(LH)分泌は変化するの か、2.LH分泌刺激ホルモン(LHRH)の前mRNAをin situ hybridization(ISH)法により検出できるのか、の以上二つのことを明らかにする目的で研究を行った。 1.に関して、正常性周期回帰ラットの発情前期の午後、両側の内側視索前野にfosに対するASNを投与して、血中の下垂体ホルモンをRIAにより測定した。その結果、全群の間で卵胞刺激ホルモン、プロラクチン値にはなんら変化を認めなかった。一方、ASM投与群のLH値はスクランブル投与群および生理的食塩水投与群のそれよりも60%程度高い傾向が認められたが、統計学的には有意差を認めなかった。この結果は、LHRH神経細胞に発現するFosが従来想像されていることとは全く異なった役割を担っている可能性を示唆している。しかしながら、統計学的に有意な差がなかったことから、投与したANSが十分にFos蛋白の発現を抑制したのかが大きな問題として残った。極めて最近、我々の用いた部分とは若干ことなるシークエンスを用いた実験の結果が報告されており、同一のASNを用いて再実験を行っている。 2.に関しては、まず、前mRNA検出用のプローブ作成のためのクローニングを行った。LHRH遺伝子の第1イントロン内にプライマーを設計して、精製したラットのDNAを用いてPCRを行った。非特異的増幅の問題があったが、DNAを制限酵素により前処置することによりこれを克服し、増幅されたDNAが意図したものであることは、PCR産物の直接シークエンスにより確認した。このクローンを用いてAmplified Primer Extension Labelingにより極めて高放射活性をもつプローブを作製して、ISHを行った。センスプローブを用いた対照実験では、なんらシグナルを認めなかったにもかかわらず、非特異的シグナルが多く、前mRNAを固定することは困難であった。ジーンバンクを検索しても相同性のある遺伝子が見当たらなかったことから、問題点として、予測できないある種の塩基配列が、何らかの理由で、RNAに非特異的の結合することが想像された。
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