本研究ではまず、He-Cdレーザーを用いた固体表面の偏光蛍光測定用光学系を作成した。He-Cdレーザーの発振線は325nmでアントラセンなどの多環芳香族を励起できる。光学系は固体表面に垂直に励起光を入射し、そこから発せられる蛍光を45度穴あきミラーで反射させレンズで集光し検出する。試料として有機溶媒に溶かしたントラセンを角型の石英セルに入れそのセル表面での蛍光を観測し、光学系の最適化を行った。 次に、色素分子が配向した固体表面の典型例として、液晶中に色素を取り込ませた薄膜セルを作成した。液晶にはネマチック液晶である4-methoxybenzylidene-4-n-butylaniline(MBBA)を用い色素には4-nitro-4-dimethylaminoazobenzene(NDAA)を用いた。液晶セルはMBBAとNDAAを十分混合し、これをラビング処理を施したスライドガラスではさんだサンドイッチ型のものを用いた。このセルの偏光吸光や、偏光熱レンズ信号を測定し色素の配向を検証した。偏光熱レンズの測定結果から、液晶セルのラビング方向と励起光、プローブ光のなす角度によって熱レンズ信号の大きさが異なることがわかった。また偏光吸光の測定結果もあわせ考えると、色素NDAAが液晶のMBBA中である一定の方向に配向していること、ホスト媒体であるMBBAの熱伝導率の異方性と屈折率の温度係数の異方性が熱レンズ信号の強さに対して関与していることがわかった。従来から導出されている熱レンズ信号の理論式にホスト液晶の熱伝導率と屈折率の温度係数の異方性、色素のNDAAの偏光吸光特性などを加味し計算した結果、実験結果とよく一致した。 現在は、液晶中で配向し、かつ蛍光強度が十分あるような色素を検索している。ロ-ダミン骨格を持った色素や、アントラセンのテトラセンなどの多環芳香族誘導体などを検討している。
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