本研究では、もともとの変動が有限な範囲内に留まっていたり、(飽和型非線形系の)計測器のダイナミック・レンジなどの存在により有限な範囲内の値を示す実際的な場合において、非定常入力を伴う系の応答解析を最終目標としている。今回は研究の初期的段階にあることから、特に飽和型非線形系における非定常変動観測時の雑音対策を、システムの物理メカニズムと直結するパワースケールとの関連で考究した。 すなわち、有限レベル変動範囲のダイナミック・レンジをもつ観測データを用いて、任意分布型の外来雑音に汚された未知非定常信号(特に、パワースケールのような正の物理量)を、動的に推定してゆく推定アルゴリズムをベイズ定理に基づき開発した。具体的には、飽和の影響を受ける前の任意変動の観測値と任意非ガウス型変動を示す未知信号間の線形・非線形の各種相情報を階層的に反映した新たな信号復元法を、広義ディジタルフィルタの形で見い出した。 更に本研究で得られた理論的結果を、シミュレーションデータや残響室内における暗騒音混入下の実音響データに適用し、その有効性を検証した。 本研究で得られた理論の特長を列挙すると以下のとおりである。1)本手法は、外来雑音の混入とダイナミックレンジの存在に整合している。2)実システムが本質的にもつ非ガウス性、非線形性に対応できる。3)推定アルゴリズムが実用的である。すなわち、観測レンジ内では従来のベイズフィルタを形式的に採用し、観測レンジの上限、下限では確率密度の集中を簡易的に考慮している。4)スペシャルケースとして、ダイナミック・レンジが十分広い場合には、従来のベイズフィルタを理論的に包含している。 本研究をもとに、今後、非定常な確率現象と計測における有限性を伴うあらゆる実分野への適用とその成果が期待できる(たとえば、機械振動、地盤振動、道路交通騒音などにおける非定常揺らぎの評価や解析など)。
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