研究概要 |
細菌細胞の逆転写酵素は、msDNA(multicopy single-stranded DNA)と呼ばれるRNAとDNAが2′,5′-ホスホジエステル結合を介して共有結合している複合体の合成に必須の酵素であることが知られている。研究代表者は、まずT7RNAポリメラーゼを用いる大量発現系とヒスチジンタグとNiアフィニティーカラムを利用した精製法によって大腸菌由来の逆転写酵素の一つであるRT-Ec73を精製することに成功した。さらに、この精製酵素とin vitroで合成した鋳型RNAを用いてin vitroでcDNAを合成することができた。そしてそのcDNAにおいてもmsDNAと同様に2′,5′-ホスホジエステル結合が形成されており、細菌細胞の逆転写酵素がそれ自身で2′,5′-ホスホジエステル結合を形成する活性を持つ現在唯一の逆転写酵素であることが示された。最近、真核生物の逆転写酵素においても2′,5′-ホスホジエステル結合の重要性が示唆されており、2′,5′-ホスホジエステル結合の形成を阻害する薬剤の研究が今後ウイルス逆転写酵素の阻害剤として注目される可能性がある。今回利用した逆転写酵素の精製法では、大量のタンパク質を精製することが困難であるため、結晶化を試みることができなかったが、現在精製法の改良を検討中である。 一方、大腸菌のRNaseH欠損変異株を用いることによって、細菌細胞の逆転写酵素が完全なmsDNA複合体を合成する際には大腸菌由来のRNaseH活性が必要であることを証明できた。 さらに、細菌細胞の逆転写酵素は、現在唯一in vivoで一本鎖DNAを合成することができる酵素である。この性質を利用すればアンチセンスDNAなどを用いた遺伝子発現制御系を構築できる可能性がある。現在、上で述べたin vitroでのcDNA合成系を利用して一本鎖DNA合成のためのベクターのデザインを検討中である。
|