研究概要 |
本研究は、肝炎ウイルスの持続感染およびその病態の終末像としての慢性肝疾患による死亡のより詳細な把握を行うため、死亡小票から得られる新たな情報をもとに、慢性肝疾患死亡多発地域における肝炎ウイルスの持続感染の関与について解析を行った。 【資料の収集】これまでの血清疫学的調査研究により、HCVの高度浸淫地区であることが判明している県内のK市を調査対象地区とした。死亡小票の閲覧、指定統計調査調査票の使用については厚生省指定統計調査使用の承認(統収第648-2号、平成5年11月12日付け)を得た。1990年〜1992年の3年間分の死亡小票をもとに、肝炎ウイルスの持続感染に起因する疾病により死亡に至ったと考えられるもの(I:原発性肝がん、肝硬変など慢性肝疾患を直接の死因とする症例、II:直接死因ではないが、慢性肝疾患の合併が記載されている症例、III:原因は明らかではないが、慢性肝疾患の疑いがある症例)を選別し転記した。なお、死亡小票の閲覧、転記については3ヶ月間保健所に通い作業を行った。 【解析方法】慢性肝疾患に関連する死亡率は、上記分類からI、I+II、I+II+IIIの群について3地区別(中央、北部、東部)に、間接法による年齢調整死亡率を算定した。K市におけるHBs抗原陽性率の算出には、1992年2月から2年間のK市在住の初回供血者3,865人を、またHCV抗体陽性率の算出には同2年間の実供血者13,545人を解析の対象とした。 【結果】1971〜1991年までの人工動態統計から算出した肝がん、慢性肝疾患及び肝硬変の粗死亡率の推移をみると、K市における同死亡は、1970年代中頃には既に人口10万あたり40を超え、全国及び広島県の水準を大きく上回りその後も増加の一途をたどっている。このうち男性の死亡率は1990年代初めには70前後に達し、全国の2倍、広島県全体に比べても1.5倍と著しく高い値を示していた。また性別では、とりわけ男性の増加が著しく、1991年は人口10万あたり103.2と女性の2.9倍に達していた。死亡小票から算出した慢性肝疾患の粗死亡率をみると、K市男性では人口10万あたり103.8、慢性肝疾患の合併の記載があるものも含めれば113.0となった。これは人口動態統計に基づく同期間の死亡率94.8に比べて9-19%高い値を示した。また年齢を調整した死亡率を3地区別にみると、男性では中央地区で高く、東部地区で低い傾向がみられるのに対し、女性については地区による差は認められなかった。直接死因が慢性肝疾患と考えれる群(分類I)の実数については男性は60歳代、女性は70歳代にピークがみられ、これは供血者のHCV抗体陽性率の年齢階級別推移と類似した傾向が認められた。 死亡小票の解析により地域における慢性肝疾患の罹患状況がより詳細に把握しうる可能性が示唆された。今後、地域における供血者集団の肝炎ウイルスマーカーの資料を蓄積し、併せて慢性肝疾患死亡の経年変化を長期的に追跡していくことが、慢性肝疾患死亡と肝炎ウイルス持続感染との関係の解明につながると共に地域住民の健康管理にも有用であると思われた。
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