組織学的に中耳粘膜上皮は、線毛細胞・分泌細胞・基底細胞等より構成される多列円柱線毛上皮より構築されている。これらの細胞により中耳腔においては生理的に、粘液線毛輸送機能が営まれており、この機能の維持は臨床的に、1)中耳手術時における術後の正常な回復並びに、2)特に現在問題となっている浸出性中耳炎の治療、に密接に関わっている。このたび私はこのように臨床的に重要であるが、未だ解明されていない中耳粘膜の分化・再生過程について、長期組織培養系を用いて現在までに以下の点を明らかにした。 (1)当教室で確立した特殊細胞培養支持基材である線維芽細胞封入コラーゲンゲルを用いることにより、実験動物(モルモット)の中耳粘膜の培養下における長期間の維持が可能であることを形態的(位相差、光顕、走査電顕)に確認した。 (2)培養細胞の増殖動態の検索目的にて、thymidineの同位体であるBrdU及び、G1・S期に特異的に発現されるPCNAを指標とし免疫組織学的に観察を行った。また同時に、主要な細胞骨格線維であるアクチンとサイトケラチンの細胞内分布を観察した。 (3)培養下の移植片(explant)では、培養早期より基底細胞へのBrdUの取り込みを認め、2週間後には中間細胞及び一部の線毛細胞、分泌細胞にも標識を認めた。 (4)一方移植片より周囲に派生した細胞群(outgrowth)では、その辺縁部並びにexplantからの移行部にBrdU・PCNAの両者を強く発現する細胞の集族像を認め、そのピークは培養後約1週間であった。 今までの報告より、中耳粘膜は生体ではきわめてゆっくりした細胞周期のもとで恒常性を保っているが、手術侵襲等による上皮欠損が生じると極めて早い再生過程を示すことが知られている。今回のモデルはこの過程を初めて再現性のある培養下で確認したもので、高い価値のあるものと思われる。
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