本研究においては、従来のデュルケーム研究において欠落していた家族論の検討が、デュルケーム社会学の全貌を明らかにするために必要であるとの観点から、その家族社会学の再構成に必要な2系統の基礎的研究をすすめた。まず、(1)デュルケームによって著された家族論、デュルケームの家族論の輪郭を推測させる同時代の研究者の論評、特に1898年から1913年にかけて刊行された『社会学年報』(12巻)の家族社会学関係の書評論文をを訳出し、内容別の検索ができるようクロスレファレンス用資料を作成した。また、(2)デュルケームの家族論の妥当性を検証するための外的基準として、日本社会における家族・親族関係の原型が残るとされる、沖縄・奄美地方を中心とした南西諸島の親族組織原理、およびその地域変動にかんする資料を収集し、デュルケームの理論と接合できるよう検討をすすめた。その結果、(1)については、G.ダヴィの「デュルケームにおける家族と親族関係」が示す家族論の輪郭に、細部における傍証を加えることはできたが、新たな側面を加えるまでには至らなかった。また、(2)については、南西諸島の親族組織の地域変動を分析することにより、家族・親族組織の累進的進化モデルを検証しようと努めたが、父系血縁原理を中心とする門中組織と双系的原理のハロウジ組織の錯綜は、予測したより以上に複雑で、デュルケーム・モデルの検証-反証の手続きに行き着くには至らなかった。今後の課題としては、デュルケームの家族理論の検討によって彼の社会学理論の他の分野に新たな解釈を適用すること、そして、南西諸島における親族組織の地域変動にかんする整理をより一層おしすすめて、デュルケームの理論との接合をはかることがあげられる。
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