研究概要 |
九州地方の現代人のミトコンドリアDNAの変異を調べる目的で、佐賀県在住者111名から血液のサンプルを採集し、通常の培養細胞や血液サンプルからDNAを抽出する方法を用いて、PCR法のテンプレートとするDNAを抽出・精製した。 この精製DNAををとにミトコンドリアDNAのV-Regionと呼ばれる領域を増幅した。この領域には通常9塩基分の配列の繰り返しが存在するが、アジアの人類集団の中には繰り返しが無く9塩基分だけ配列が短くなっている個体が存在することが知られている。増幅したPCR産物を3%のアガロースゲルに泳動して佐賀県の集団におけるこの欠損の比率を調べた。95体のサンプルについて調査した結果、9塩基の欠損を持つ個体は13体であった(欠損率13.7%)。9塩基の欠損はアジアの集団でも南方集団を特徴づける遺伝子であると考えており、従来の報告では現代日本人は約20%の変異を持つとされている。今回の結果はそれより低い値となったが、文献によれば現代の朝鮮集団の欠損率は約8%で日本人より低く、両者の中間の値となっている。弥生時代より北部九州地方は大陸,特に朝鮮半島とのヒトの交流が密な地域であると考えられており、ミトコンドリアの遺伝子の頻度が両者の中間を示したのは、このことの影響が現代まで続いている可能性があることを示唆している。 現在、同じミトコンドリアDNAのD-ループ領域から500塩基対程度を増幅するプライマーを設計して、得られたテンプレートDNAに対してPCR法を用いたDNA増幅を行っている。そしてこの領域の塩基配列を決定して、更に詳細な解析を行っている最中である。
|