研究課題
特別研究員奨励費
生物界を見渡すと、単為生殖という増殖に有利な繁殖方法を使わず、有性生殖を利用する種が多い。2つの生殖様式については、それぞれの利点と制約に関して多くの議論がなされているものの、未だ定説と言える見解は得られていない。本研究では、環境変化に応答して有性生殖と単為生殖を使い分けるミジンコ(Daphnia pulex)を材料に、それぞれの生殖様式の細胞学的機構を明らかにし、両者がどのように進化してきたかについての知見を得ることを目指している。ここまでの研究では、生殖機構の切り換えに際して、卵形成過程のどの段階がどのように変更されているのかを明らかにすることを中心に進めてきた。本研究全体としては、最終的に動物界における単為生殖と有性生殖の進化戦略的意義を明らかにする新しい進化発生学のモデル系の確立を目指している。ミジンコの単為生殖は、体細胞と同様の分裂で作られる2倍体の卵が発生し、親と同じクローンを生じると言われてきたが、それを支持する決定的な証拠が得られていない上、有性生殖における受精や減数分裂過程の詳細も明らかではない。本研究結果から、ミジンコの単為生殖では、「減数しない減数分裂」により2倍体となった卵が発生を開始することが明らかとなった。その過程では、減数分裂の特徴である相同染色体の対合が起こり、第1分裂中期までは正常な減数分裂と同じ様相で進行するが、第1分裂の後期で分裂が停止する。その後、染色体が再び赤道面に戻って並び直して第2分裂に相当する分裂を行い2倍体状態が維持される。これらの成果は、国内学会にて発表し、国際誌に掲載された(Hiruta et al.2010)。この単為生殖で起こる分裂の細胞学的な機構を明らかにすべく、分裂装置の構成や挙動に焦点をあてたところ、γチューブリンの局在に特徴があり、中心体の形成に関わる部分に通常の減数分裂との相違点がある可能性が示唆された。
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Chromosome Research
巻: Volume 18, Number 7 ページ: 833-840