研究概要 |
インスリン様成長因子II(IGF-II)の病態生理学的意義に関して以下の検討を行った。 低血糖を呈するIGF-II産生膵外腫瘍(non-islet cell tumor hypoglycemia:NICTH)での低血糖の発症機構の検討:NICTHにはIGF-II主に大分子量IGF-IIを産生するものがあるが,このIGF-II産生NICTHでは血中IGF-II値は必ずしも高値でなく,IGF-II値のみで本症の低血糖を説明することはできない。この低血糖の発症にIGF-IIの作用を調節するIGFBPが関与が示唆され,我々は本症では血中IGFBP-3の減少,IGFBP-2の増加およびIGF-IIの三量体形成不全があることを報告してきた。本研究では三量体の構成成分であるALSについて検討し,ALSの減少を認め,本症での三量体形成不全にALSの減少が関与することが示唆された。また,本症での大分子量IGF-II自身の変化が低血糖に関与することが考えられる。本研究では大分子量IGF-IIについてproIGF-IIのE-domainのN端側(E10-21)とC端側(E71-89)を認識する特異抗体を用い検討した。本症の大分子量IGF-IIはfull lenghth proIGF-IIではなく,そのprocessingの結果生成されるpro-IGF-II-(E1-21)であり,その副産物のC端fragmentも血中に存在することが示唆された。 抽出操作なしの血清IGF-IIのWestern immunoblotの臨床応用の有用性の検討:大分子量IGF-IIの検討にはWestern immunoblot(WIB)法が用いられるが,IGF-IIは血中でIGFBPと結合して存在するため,酸-エタノール抽出物をサンプルとしてを用いてきた。本研究ではこの前処理なしに全血清を用いて,より簡便に大分子量IGF-IIの検出する方法を確立した。 腫瘍組織におけるIGF-II遺伝子のloss of imprinting(LOI)に関する検討:IGF-II産生NICTHでのIGF-II遺伝子のLOIについてallele-specific PCR法を用いて検討した。10例の組織で全てに発現しており,7例がヘテロ接合体であった。この7例のうち5例にLOIが認められた。Apa Iによる制限酵素断片長多型を用いた方法と比較したところ,Apa Iを用いた場合一例においてLOIが認められるともとれる薄いバンドを検出したが,AS-PCRでは認めなかった。以上の成績よりAS-PCR法はIGF-II遺伝子のLOIを検討するために,簡便かつ有用な方法であることが示唆された。
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