研究概要 |
1.一次間充織細胞の分化の要となる転写因子Etsタンパク質は,未受精卵に存在するが,卵割の過程で速やかに消失し,胞胚期に再び現れて間充織胞胚期に発現レベルが最高に達し,プルテウス期には減少することが示された。このことは,未受精卵に高濃度に蓄積されたEts-mRNAは翻訳されないことを意味しており,胞胚期以降の一次間充織細胞特異的な発現は,Ets遺伝子が活性化された結果である可能性が高くなった。また,転写開始点下流,5'-UTRにT遺伝子のTドメインの認識配列が存在することが明らかになった。2.T遺伝子のクローニングに成功し,Tbrに属すHpTbが得られた。HpTbは孵化前胞胚から発現を開始し,孵化胞胚期に発現が最高に達し,間充織胞胚期に減少し,以降消失することと,一次間充織細胞特異的に発現することが示された。3.初期卵割期のウニ胚では植物極から動物極にかけて細胞質性ミトコンドリアrRNAの濃度勾配が存在することが明らかになり,動植物軸形成との関わり合いが示唆された。4.HpLimは胞胚期に植物半球で一過的に発現すること,また,HpLimを胚全体で過剰発現させると内・中胚葉の形成が阻害されるとともに,口側・反口側軸が形成されないことが明らかになった。HpLimの発現領域と強制発現による表現型が予想とは逆になった原因として,HpLimの強制発現によりHpLimとの共因子が除去されたためと考えられる。これら結果は,HpLimが,ウニ胚の背腹軸の形成に必要な植物半球からのシグナルの形成に関わることを示唆している。5.Otxはアリールスルファターゼ遺伝子の転写の活性化に必要であるが十分ではなく,CAAT結合因子との相互作用が必要であることが明らかになった。6.Ars遺伝子の上流に,エンハンサー活性やポジション効果を遮断する機能をもつ約600塩基対の配列を発見した。この配列はクロマチンの境界と考えられる。
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