平成12年度は、平成11年度に行った「(1)理論研究」に引き続き、「(2)因果モデルの構成と検証」を中心として実証的研究を実施した。それは、大きく分けると、デュルケーム理論の系譜を引くアノミー論を補完するものとしての、禁忌習俗にかんする民俗調査、および地域データを用いてアノミー発生の因果関係を検証しようとする統計モデルの構成に分けられる。 民俗調査においては、アノミー論→聖-俗理論を基礎づけるタブーの原理について、文献調査および現地における聞き取り調査により、従来のケガレ論の見直しを促進すると思われる事例を収集した。典型的には死や出産により生じるケガレは、カミなど神聖なものとの接触をタブーとされ、ケガレと聖なるものとの接触禁止が基本原理と見られる傾向がある。しかし、聖なるものとの接触を禁止されるケガレ(妊娠、出産、家の新築、死など)が、いわゆる神聖な事物とは独立に、相互に排除しあうという事例(の痕跡)が、西南日本の島嶼部に見いだされる。このようなタブーは、沖縄本島中部や五島列島において顕著に観察され、奄美大島、宮古・八重山地方においては比較的緩やかである。かかる地域的差異の説明、および聖-俗理論への組み込みが今後の課題となる。 因果モデルの構成においては、地域別の統計データを観測変数として、潜在変数としての家族アノミー(構成概念)を構成し、少子化と高齢化が進む現代日本の社会状況の中に因果的に位置づけるモデルの構成を試みた。その際、家族アノミーが少子・高齢化を経て社会の高度福祉化をもたらし、それが因果的にさかのぼって家族アノミーを促進しているという循環的因果関係を想定したが、モデルの適合度は低く、モデル構成のさらなる改善が今後の課題となる。
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