研究概要 |
近年,神経系,免疫系,内分泌系は情報伝達物質と受容体を共有することが明らかとなり,この3者が対話してお互いに影響しあっていることが明白になってきた。一方,唾液腺は外分泌器官としてのみならず内分泌器官としても重要な臓器であると考えられており,我々もそれを裏付ける報告を行ってきた。したがって,種々のストレス刺激に対する生体応答を負担の少ない唾液を用いてモニター出来る可能性が考えられる。そこで我々は,唾液を用いた歯科診断ストレスの定量化の可能性を検討した。 クロモグラニンA(CgA)は副腎髄質のクロム親和性顆粒中に存在しており,様々なストレス刺激により副腎髄質からカテコールアミンとともに分泌される。本研究において我々は,ヒト唾液腺組織がCgAを産生していることを免疫組織学的に明らかにし,さらに,外科処置を行った患者の麻酔前後ならびに処置後の唾液を採取し,唾液中のCgAおよびコルチゾール濃度をRIA法およびELISA法にて測定した。また,緊張感および不安感のアンケート調査を行うとともに特性不安検査を用いた心理テストを行い患者の歯科診断ストレスと唾液中のCgAおよびコルチゾール量の関係を検討した。その結果,以下のことが明らかとなった。 歯科診療時のストレス負担に伴い,患者の唾液中の分泌蛋白濃度が変化しストレス刺激に対する生体反応を唾液を用いて簡便にモニター出来ることが明らかとなった。特に,従来は定量が非常に困難であった精神的ストレスが,CgAの唾液中の濃度の上昇と,分泌型IgAの濃度の低下で定量出来ること,さらに,ストレスから解放されたリラックス状態(快適状態)では分泌型IgAの濃度が上昇し,CgAの濃度が低下することが明らかとなった。一方,じょうらいよりストレス反応の指標として用いられていたコルチゾールは主として肉体的ストレス負荷に伴い上昇することが明らかとなった。 以上の結果から,種々のストレス刺激に対する生体応答を負担の少ない唾液を用いてモニター出来る可能性が強く考えられた。
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