研究概要 |
本研究では,ホールスラスタの長寿命化への指針を得ることを最終目標に研究を行った. まず,独自の損耗測定法である多層コーティング法は,従来の寿命評価における時間がかかりすぎるという問題点を解決するため提案されたものである.具体的には,推進機の損耗部分に数百ナノメートル程度の多層薄膜を施したプローブを埋め込むことで,損耗の進行を薄膜層の発光により可視化し,ほぼリアルタイムな損耗測定を可能にする手法である.損耗率の定量測定のために必要な較正のための実験を行い,損耗率の磁束密度依存性や軸方向の空間分布を測定した.また,分光法による測定結果との定性的な比較も行い,一致した傾向が得られた.これにより,数千時間に及ぶ耐久試験に頼ることなく損耗を測定できるようになった. 次に,粒子法を用いた数値寿命解析法は,従来の寿命シミュレーションにおける,壁面直近の領域を模擬できない,という課題を解決するために提案されたものである.先例がない試みを成功させるため,半陰解法を用いた電位計算,質量比モデル,計算領域と境界条件の改良を提案し問題の解決を図った.特にこれまでにない質量比モデルを用いることで,計算を大幅に高速化しつつも解析精度の低下を最小限に抑えることができることを提案した.主要な物理モデルや計算条件についてパラメトリックな検証を行い,実験結果との比較によりそれらが妥当であることを確かめた. 最後に,開発したモデルを用いて,ホールスラスタの長寿命化のメカニズムを調べた結果についてまとめている.特に,プラズマを壁面から乖離させることが,長寿命化のために最も重要な指針であることを提案した.
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