研究概要 |
現在,特定の遺伝子の発現制御を行うためにアンチセンスRNAやアンチセンスオリゴヌクレオチドを利用する方法が一般的に用いられており,その技術は遺伝子組換え作物や病気の治療などに応用されつつある。しかし,発現量の多い遺伝子に対して十分な発現抑制を行うためにはかなり大量のアンチセンスRNAを細胞内で発現させたり,大量のアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与する必要があるなど問題点も多い。これらの観点からアンチセンスDNAを細胞内で合成するベクターを開発すれば,多方面への応用が期待できる。細菌由来の逆転写酵素は,細胞内においてmsDNA(multicopy single-stranded DNA)と呼ばれる一本鎖RNAと一本鎖DNAの複合体の合成に必須の酵素である。このmsDNA合成系は,現在唯一細胞内で安定な一本鎖DNAを合成することのできる系である。そこで本研究においては,msDNA合成系を利用してアンチセンスDNAを細胞内で合成するためのベクターの開発とアンチセンス効果の検討を行った。 まず,予備検討を行うために細菌内でアンチセンスDNAを合成させ,大腸菌のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)を標的として細胞内で合成したアンチセンスDNAの効果を調べた。その結果,最高85%の活性阻害が認められ,かなり効率の良い遺伝子発現制御系であることが確認できた。次いで,この系を利用して多剤耐性遺伝子の発現抑制を行ったところ薬剤耐性菌を感受性化することに成功した。現在は,この細胞内アンチセンスDNA合成法をがんの遺伝子治療に応用できるよう細菌逆転写酵素遺伝子とmsDNAコード領域を動物細胞用のベクターに移し,動物細胞内での効率のよいmsDNA合成系の開発を行っている。その際,アンチセンスDNAの効率のことを考えて,核内でmsDNAを合成するベクターと核外で合成するベクターの両者を構築している。
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