研究概要 |
パーキンソン病の発症には遺伝的素因と環境要因の両方が関係している.遺伝的素因の関与はアイスランドの大規模な遺伝学的調査により明確に示された.遺伝要因として、パーキンソン病のモデルとして用いられているMPTPや6-hydroxydopamineがシナプス間隙からドーパミントランスポーター(DAT)を介して神経細胞内に取り込まれ神経障害を引き起こすことからその機序にDATが関わっていると考えられている.DAT遺伝子の多型を検索することが遺伝的素因と環境要因の両者に関与していることから,この遺伝子の全コーディング領域の多型を検索しパーキンソン病群と正常対称群での頻度を比較した.その結果,エクソン内に2つの多型を同定し,そのうちエクソン9に存在する1215A/GがGである多型がパーキンソン病群で有意に少ないことを示した.しかし,この多型はアミノ酸配列を変化させないため,パーキンソン病の発症に関係する機序として別の多型が連鎖不平衡にあり直接的に働く可能性を考えた.われわれはパーキンソン病のプロモーター領域に注目し,その領域での多型の検索した.多型の検索にあたり,検体として孤発性パーキンソン病患者24名から研究に関する十分な説明を行った上で同意を得て採血した血液中の白血球から精製したゲノムを用いた.多型の同定には直接塩基配列決定法を用いて,DAT遺伝子のプロモーター領域約1000bpを検索した.結果としては前述の領域から10個の多型を同定し,そのうちの3つは転写調節に関与するSp-1サイトの中や近傍に存在していた.これらの多型がDATの転写調節に関与しシナプスに発現するDAT量を変化させることによって神経毒によるドーパミン作動性ニューロンの脱落に影響を及ぼすことが考えられた.
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