研究概要 |
本研究では,短時間のうちに2つの課題を行うとき,2つ目の課題が見落とされたり,うまく遂行できないというヒューマンエラーの原因を探るため,a)2標的間の空間的関係(標的位置の同異),b)2課題の性質(同じ課題か,異なる課題か),c)切り替え負荷の時間的特性,d)標的後に呈示される物体のマスキング特性,e)標的位置での局所的情報処理促進の有無という5つの観点で目的を設定した.これらの5つの観点に対応した実験は全て終了し,次のような成果が得られた. 1.短時間内で連続2作業を行うときの認知負荷の評価方法として,高速逐次視覚呈示法を利用した実験から,標的間の空間的位置関係は大きな作業負荷となることが見いだされた.本研究では,平均作業成績を被験者間で統制して比較可能な動的ノイズ操作法を初めて開発した.これらの成果はJournal of Experimental Psychology : Human Perception & Performance誌に発表した. 2.処理負荷を起こす2課題の性質は,両者の物理的特徴が異なっていることが決定的な成分となっていることがわかった.これは,視覚的特徴と反応(認知操作)を分離した実験で明らかになった. 3.切り替えの時間的特性を検討した実験では,2つの課題がきわめて短時間内(〜300ms)に呈示されることが大きな処理負荷を生じることが分かった.実際に反応する順序は問題ではないことも見いだされた.これら2および3の点はJournal of Experimental Psychology : General誌に発表した. 4.標的に対するマスキング特性を検討した実験では,従来報告されていた注意の瞬き現象は,第1標的の困難度による成分と,課題切り替えによる成分があることが分かった.従来の研究では,これらの2つの成分に加え,視覚マスキングの効果が混同されており,本研究によって初めてマスキングの成分を除いた課題切り替え成分による見落とし効果が明らかになった.この成果はPerceptoin & Psychophysics誌に掲載予定である. 5.標的位置での局所的促進の有無を調べた実験では,連続2作業を実施する場合に標的位置に焦点化される注意は,局所的な処理の促進を引き起こすことが示された.これはPsychological Research誌に掲載予定である.
|