研究概要 |
移植片対腫瘍効果の発現機序や、造血幹細胞・間葉系幹細胞の分化転換などの研究の進展に伴い、細胞免疫療法・再生医療へのプラットフォームとして、同種造血幹細胞移植への需要はますます高まりつつある。しかし、依然として本療法の最大の障壁は、donor availabilityであり、特にHLA-A, B, DR一抗原以内不一致のドナーを見出せない場合の標準的な移植方法は未確立である。本研究においてはこのような問題点の解決を図るため、妊娠時の母子間免疫寛容機構をHLA不一致造血細胞移植へ応用することを目指して、主に母子間マイクロキメリズム(MC)に関する基礎的検討を行なった。まず異なったH-2背景をもつ両親から生まれたF1マウスの造血組織を用いて、母由来細胞MCの検討を行なうた。F1骨髄からは第12週齢以上においても、母と同様の表現型を有し、前駆細胞活性を有する細胞群が分離可能であった。次に自己免疫疾患を有さない造血器腫瘍患者、健常人132名を対象として、HLAを標的としたnested PCR-SSPを用いて検討したところ、母親の82%、子の66%において子由来あるいは母由来造血細胞のMCが検出可能であった。興味深いことに本邦において実施された両親から子供への造血細胞移植の後方視的検討では、母からの移植群の予後は、父からの群よりも有意にすぐれており、また、難治性白血病患者を対象として、レシピエント型造血細胞のMCが陽性のドナーから試みられたHLA不一致造血細胞移植の後方視的解析では、特に同胞間では2座以上の不一致が存在する場合においても重症移植片対宿主病が発症しにくい傾向が認められた。 本研究の結果から哺乳類においては、母子間造血細胞のキメラ状態が高頻度で成立しており、そのようなマイクロキメリズムが非遺伝母HLA抗原・配偶者由来抗原への獲得寛容機構に関与している可能性が示唆された。
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