研究概要 |
本研究の目的は,これまでの運動時の体温上昇時に変動した視索前野・前視床下部(PO/AH)の神経伝達物質の機能に着目し,運動時にマイクロダイアリシス法を用いてPO/AHの神経細胞を局所的に修飾させ,その際の深部体温の変動から神経伝達物質の機能および作用機序を明らかにずることである. 実験にはWistar系雄ラットを用いた.トレッドミル装置を用い,ラットを3週間トレッドミル運動に慣れさせた.その後ラットの腹腔内に小型体温計(テレメトリー)を埋め込み,2週間の回復後,PO/AHにマイクロダイアリシスプローブを挿入した.本年度用いた薬理刺激は昨年度に確立した刺激薬の種類,作用濃度を適応した.以下の成果が得られた. ラット運動中におけるPO/AHの神経活動を非選択的に抑制した.tetrodotoxin(TTX)を,2時間の運動のうち(速度;10m/min)最後の1時間で灌流すると,それまで定常状態であった体温が急激に上昇した.この高体温は刺激前,および対称群と比較すると有意なものであった.深部体温と同時に測定した熱放散系の指標である尾部皮膚温はTTX灌流により抑制された.これらのことからPO/AHは,運動時の体温調節における熱放散機構に深く関与していることがわかった. さらに運動中におけるPO/AHの神経活動牽選択的に促進した.ドーパミン取り込み阻害剤であるGBR-112935およびNomifenshine灌流により,運動中の体温上昇は抑制される傾向であった.また,セロトニン取り込み阻害剤であるfluoxetine灌流により,体温は緩やかに上昇する傾向であった.これらのことから,運動時のPO/AHにおけるドーパミン作動性神経は主に熱放散機構に,セロトニン作動性神経は主に熱産生機構に関与している可能性が示唆された.
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