研究概要 |
かつてフランスを代表する映画監督として世界的な名声を博していたルネ・クレールをめぐって,フランスの映画批評におけるその評価の変遷を検証し直し,なかんずく彼の"自己反省的"な映画観に対する関心の推移を辿ることで,映画的言説における"同時代性"の意義と問題点を明らかにすることが本研究の目的とするところであった。 かねてから取り組んできたこのテーマをめぐって,平成13〜14年度の研究期間においては,2度にわたってパリに出張し,フランス国立図書館,同図書館の芸能部門分館であるアルスナル図書館(遺族より寄贈された「ルネ・クレール資料」を収蔵),映画図書館(BIFI)などで資料調査を行ったほか,シネマテーク・フランセーズや,平成15年3月の出張で訪れたロンドンのブリティッシュ・フィルム・インスティテュート(BFI)などのフィルム・アーカイブで,関連作品の研究試写も行った。 その成果をまとめた報告書では,クレールの映画監督デビューから晩年の活動に至るまで,ほぼ彼の全キャリアを通じて,その作品と,彼自身の論評と,公開時の批評を検証することができ,その結果,処女作以来,すぐれて自己反省的な映画観を探究してきたクレールが,映画批評の"同時代性"に応じて,必ずしもそうした特色を正しく評価されてこなかったという事実が明らかとなり,そうした批評の恣意性を明確に把握することこそが,映画的言説の真の"同時代性"を認識することにつながるという知見を得ることができた。 なお,平成14年度末に研究経過報告書を提出した段階では,研究成果は単行書の形でまとめる意向であったが,最終的な成果物とするにはさらに若干の調査が必要となったため,科研費補助金による研究成果としては,様式11の体裁に従った報告書として提出することとした。なるべく早い時期に追加の作業を完了して,単行書として出版したいと考えている。
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