研究概要 |
本研究期間においては,量子系の時間発展,特に測定操作が量子系に及ぼす本質的影響に関して,従来の研究成果を格段に発展させることができた. まず,可解なモデルに基づいた量子系の時間発展の異なる三様式-時間発展初期のガウス型時間発展,続いて現れる指数関数型崩壊形式,長時間領域での幕型崩壊形式-の詳細な解析結果をまとめた. 続いて,測定操作の及ぼす効果のうち,これまで見過ごされてきた別の側面として,全体系の一部にのみ繰り返された測定操作によって,系の残りの部分が,その初期状態とは関係なく,一定の純粋状態へと移行する機構(状態の「純化」機構)が存在することを明らかにした,我々はこの枠組みをいくつかの簡単な量子系に適用し,最適な純化が実現できるための条件を明らかにした.具体的には,1)複数の2準位系(qubit)から成る複合量子系では,一つのqubitの状態確認によってこれと相互作用している他のqubit系が確かにある純粋状態に導かれることを明らかにした.2)量子絡み合い状態としてよく知られたBell状態の抽出が可能であること,さらにその最適条件を明らかにした.3)空間的に離れた二っの量子系間に絡み合った状態を抽出する方法を提案し,量子ゼノンダイナミクスと組み合わせることでこれまで以上に多様な量子状態がこの枠組みを通して実現可能であることを明らかにした.4)離れた2qubit間に量子絡み合い状態を抽出するための(測定回数を可能な限り抑制したという意味において)最適な手続きを提案した.5)半導体積層量子ドット系を用いて実際の実験室でこの枠組みを実証するための提案を行った. また,量子コヒーレンスの回復,維持の方法として提唱されている代表的な三つの手法を定量的に比較検討した他,Lindblad型方程式に対して新たな解法も見出した.
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