研究概要 |
我々は,磁場下で結晶が成長すると,結晶が配向することを見出してきた。磁場印加による配向(磁気配向)は,結晶の磁気異方性に起因し,磁気エネルギーと熱エネルギーの優劣によって制御されると考えた。このとき得た結論は,(1)磁気配向が熱撹乱に逆らって起こるためには,結晶はある大きさ以上(>1μm)のサイズを持つことが必要で,(2)配向は,一定温度で磁場強度に対してボルツマン分布に従うということであった。次の問題は,種々の温度下で熱エネルギーが変化するときに,磁気配向がどのように振る舞うか(ボルツマン分布に従うか)を調べることであった。 今回の補助金を使って,磁気配向と熱のテーマについて検討した。試料にはカーボンナノチューブとカーボンファイバーを選んだ。これらの分子集合体は,(結晶のように)秩序立った構造と(分子として)巨大なサイズを持つので,磁気配向を観測して,その磁気異方性を配向割合から求めることができる。成果として,(1)ファイバーのような磁化率が温度変化しない物質に対しては,温度の上昇とともに磁気配向は乱れる(ボルツマン分布に従う)ことと,(2)多層ナノチューブは高温で配向割合が増加して,磁気異方性が温度依存する(高温で増加する)ことが明らかになった。 多層ナノチューブの特異な磁気的性質は,チューブ層間の構造変化を反映すると考えている。すなわち,多層ナノチューブは,室温付近で層間の重なりが安定化する構造へ転移するが,その直径,層数が不均一な分子集合体であるため,転移温度が幅広くぼやけてしまうと考えている。
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