運動パフォーマンスは様々な要因により決定される。体温、脳内の神経伝達物質、末梢および中枢レベルでの疲労もその要因の1つであり、興味深いことにこれらは密接に影響している。本研究の目的は、運動生理学分野で注目されているテレメトリー法とマイクロダイアリシス法をカップリングさせた系を用いて、運動時の体温調節中枢(PO/AH)の役割を検討することである。 平成14年度はPO/AHの神経活動をTTXにより非選択的に抑制すると、熱放散系の抑制および熱産生系の亢進が同時に惹起され、その結果運動中の体温上昇を観察した。これらのことから運動中のPO/AHは、体温調節中枢としての重要な役割を担っていることが示された。 平成15年度はWistar系雄ラットを3週間のトレッドミル運動に慣れさせ、その後腹腔内にテレメトリー、PO/AHにマイクロダイアリシスプローブを挿入し、運動中の深部体温、PO/AHの神経伝達物質、心拍数、尾部の皮膚温を測定した。以下の成果が得られた。 ・運動中の疲労困憊時におけるPO/AHの神経伝達物質と体温調節反応の測定は、例数が少なく信頼できる結果は得られなかった。 ・運動中の体温調節中枢の働きを薬理的に非選択的に修飾し、体温調節反応を観察した。薬理刺激は選択的取り込み阻害剤を用いて特定の神経伝達物質の放出量を増大させた。 -NomifenshineによりPO/AHにおけるDopamine (DA)が増大し、運動中の体温は下降した。 -FluoxetineによりPO/AHにおけるSerotonin (5-HT)が増大し、運動中の体温は徐々に増加する傾向であった。運動後の回復期2時間まで体温は高い値であった。 これらの結果は、運動中のPO/AHにおけるDA作動性神経活動は体温調節機構、特に熱放散機構に関与していること、5-HT作動性神経活動は運動時の体温調節への関与は少ないという我々の過去の研究報告を支持する結果である。
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