研究課題
若手研究(A)
交差分子線散乱画像観測装置を用いて、衝突エネルギー6kcal/molにおけるO(^1D)+HCl→OH+Cl(^2P_J)反応の散乱実験を行い、生成Cl原子のスピン軌道状態(J=1/2、J=3/2)を分離した散乱分布画像を測定した。特徴的な前方散乱を示す散乱角度分布が測定されたことから、これまでの多くの研究において示唆されてきた基底状態(1^1A')の深いポテンシャル井戸領域に捕捉された長寿命中間体を経由するのではなく、より直接的な反応機構で反応が進行することを明らかにした。短時間の相互作用で反応が終了する機構に対応して、生成OHの内部終状態分布は、より高い内部エネルギーを持つOHがより多く生成する反転分布を示していた。さらに詳細な散乱角度・速度相関の解析では、OHの後方散乱が内部エネルギー緩和と有意の相関を持っていることを明らかにして、擬古典経路法による理論計算との比較から微視的反応機構を検証した。励起状態(2^1A'、1^1A")の反応への関与を量子化学計算と動力学理論計算との比較に基づいて評価したが、本測定結果には電子的非断熱遷移の実験的証拠は現れていなかった。一方、スピン軌道相互作用による非断熱遷移はスピン軌道励起状態Cl^*(^2P_<1/2>)の生成をもたらすが、Cl^*(^2P_<1/2>)はCl(^2P_<3/2>)(スピン軌道基底状態)の10%程度の強度比で検出された。2つのスピン軌道状態のCl(^2P_<3/2>)とCl^*(^2P_<1/2>)が相似の散乱分布が示していたことから、ClとCl^*に相関する複数のポテンシャルエネルギー曲面の相対変化が小さくなった反応出口領域付近において、スピン軌道相互作用型の非断熱遷移が生じていると結論した。
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Physica Scripta T110
ページ: 312-318
Physics Scripta T110
ChemPhysChem (in press)