研究概要 |
本研究では,シンプレクティック普遍クラスに属する乱れた量子細線に注目し,絶対零度のコンダクタンスの振る舞いについて検討した.奇数チャネル数の場合にのみ完全透過チャネルが生じるため,コンダクタンスの振る舞いはチャネル数の偶奇性によって本質的に異なると予想される.この偶奇性による差異を明らかにすることが本研究の目的である.そのために,偶奇性を記述できるランダム行列理論を定式化し,その有効性を数値シミュレーションによって検証した. ・symplecticクラスに対するランダム行列理論 偶奇性を詳細に比較するためには,透過固有値の振る舞いを記述するDMPK方程式が必要となる.我々は,奇数と偶数チャネルの両者に対して統一的な枠組みのもとでDMPK方程式を導くことに成功した.また,この方程式に基づいて,金属領域と局在領域の両極限においてコンダクタンスの振る舞いを検討した.その結果,局在領域において顕著な偶奇性が生じることを明らかにした.平均コンダクタンスは,チャネル数が偶数の場合は0,奇数の場合は1に漸近する.また,局在長が偶奇性に大きく依存することを示した.これらの偶奇性は,完全透過固有値とそれが他の固有値を押し下げる効果によって脱明できることを示した. (2)格子モデルを用いた数値シミュレーション ランダム行列理論の結果を検証するために,格子モデルを用いた大規模数値シミュレーションを実行した.平均コンダクタンスを計算したところ,細線が長い極限において,チャネル数が偶数の場合は0,奇数の場合は1に漸近することを確認した.また,局在長を数値的に評価したところ,奇数の場合の局在長は偶数の場合より短くなることを見出した.この結果は,ランダム行列理論と定性的に一致する.さらに,最大透過固有値の分布関数を数値的に求めたところ,奇数と偶数の何れの場合においても,ランダム行列理論と定量的な一致が見出された.これらの結果から,我々が定式化したシンプレクティック普遍クラスに対するランダム行列理論は,十分な予言能力を有することが示された.
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